僕とあたしの海辺の事件慕 最終話「色褪せても大切な日々……」-3
「私が? んー、だって昨日はさっさと寝ちゃったし」
理恵は頭の後ろで手を組みながら首を傾げる。
「ふむ、おかしいのお。一体誰が犯人じゃろうて」
無い髭をさするのはクセなのか、久弥も首を傾げる。
「はは、二人が口裏を合わせてるとか、そんなんじゃないですよね?」
「うむ、それならもっと怖がらせるじゃろう。おじょうちゃんは怖がらせがいがありそうじゃし」
「そうよね」
「それはそれで……」
――酷い。
「でもさ、あのイタズラは病院の頃からあったんでしょ?」
「うむ。そうじゃな。あれは確かワシが左足を骨折したときのことじゃった」
「ご飯できましたよー!」
久弥の話を遮るのは笑顔一杯の美羽と食器を運ぶ文宏の姿だった。
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テーブルに並べられたのはバタートーストにハムエッグ、レタスとトマトの簡単なサラダ。コンソメスープとミルク、オレンジジュースの並んだ簡素なもの。
メインシェフの公子がいないとこのレベルまで下がるらしい。
「それでは何かありましたらおよび下さい」
「待て、せっかくじゃから君らも一緒に食べて行きなさい」
ぺこりと頭を下げて戻ろうとする美羽達を呼び止める久弥。本来従業員である彼女達が身内とはいえ客と食事を共にするのは異例といえる光景。
もっとも老人の暇つぶしと理恵などはそう気に止めておらず、もさもさとパンを飲み込んでいた。
「それでは遠慮なく……」
とはいえ文宏にしてみればいつ警察に突き出されるのかと内心ひやひやしているらしく、椅子を引く手も震えてがたがたと音を立てる始末。
「して、文宏君とやら、君は美羽君とはどういう知り合いなのかね?」
「え? えっと、その、昔からっていうか、高校の頃の知り合いで、そんで……じゃなくてそれで、その時、実行委員だっけ? 文化祭の」
「うん。みんなが全然協力してくれなくて……」
「そうそう、そんでお前だけ残ってたんだよな、教室に」
「一人でいるの寂しかったよ」
「それでも泣かないんだから、美羽は強いよな」
「えへへ……」
「こほん」
二人だけで盛り上る光景に久弥は短く咳払い。
「あ、すみません」
「それで、君らは実行委員をしてたというわけか。他には?」
神妙な面持ちに戻る文宏に、久弥は先を促す。
「えっと、それで親しくなりました私達は高校を出てからも連絡を取り合いまして、そして、その、晴れて恋人同士になりました」
緊張でカチコチになる文宏を見ていると笑いがこみ上げてくる。隣でフォークを振るう真琴も笑いを堪えているらしく、フォークの先は黄身をしっかりと潰している。