僕とあたしの海辺の事件慕 最終話「色褪せても大切な日々……」-2
「ふふ、幽霊か。もしかしたら弥彦の幽霊かもな」
「え?」
昨日は病院に検査入院をしていたはず。
「もしかして何かあったんですか?」
「いや、昨日の夜に連絡があったぞ。不審者が見つかったといったら戻ってくると意気込んでいたぞ」
「そうですか……」
和弥はともかく突き落とされた弥彦なら冷静ではいられないだろう。それに彼の性格と目的が合わされば這ってでもくるのではないのだろうか?
「しかし、幽霊か……、ふふ、理恵の奴酷いことするのお」
「知ってたんですか? 手すりのこと」
真琴の問いかけに久弥は綺麗にそられた顎髭を撫でるようにして頷く。
「まあな。というか、ワシも昔ここに入院していた頃によくやったわい」
「やっぱりおじいさんもハンセン何とか病だったの?」
怯えた様子の澪は真琴の影に隠れながら小声で聞く。
「うん? いや、ただの骨折じゃよ? 左足をちょっとな。確か木に登ってそんでおっこちたんじゃが、まあよくあることじゃよ」
あっけらかんとした様子に澪も「うふふ」と噴出してしまう。
「おじいさん、ヤンチャなんですね」
「まあな、昔はガキ大将じゃったし」
二カッと歯並びの良い笑顔を見せる久弥に澪もニィと笑顔を返す。
「でも理恵さんがどうして酷いって?」
「ふむ、それはじゃな、まだ理恵がおじょうちゃんぐらい可愛らしかった頃、このペンションに泊まりに来てな、ふふ、ちょっとからかうつもりで手すりでお化けのフリをしたんじゃ。そしたらアイツすごい剣幕で部屋を飛び出して、その後は……ふふふ」
思い出しては笑い、話が途切れ途切れになるが大体のことは分かる。つまり理恵は例の声に怯えていた一人なのだ。
「おじい様? 余計なことを喋るとおばあ様がそうそうに迎えに来ますわよ?」
開けっ放しになっていたドアをこんこんとノックするのは理恵その人。今日は二日酔いでは無いらしく、それでも機嫌が悪そうに眉をヒクつかせていた。
「はて、なんのことじゃったかの? 美羽さん、昼飯はまだかい?」
久弥は誰もいない壁に向ってなにかを呟きだすので、一瞬なんのことか分からなくなる。
「おじい様。ぼけたフリはやめてください。リアルで笑えませんわ」
「はは、リアルって……」
ふうとため息をつきながら椅子に着く理恵。彼女はテーブルにあった温くなった
コーヒーをカップに注ぐとそのままゴクリと飲み込む。
「澪ちゃんも気の毒ね、おじい様のイタズラに驚いたでしょ」
「なに? ワシはしとらんぞ。というか、理恵じゃないのか?」
心外とばかりにボケたフリをやめる久弥。