僕とあたしの海辺の事件慕 最終話「色褪せても大切な日々……」-17
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事件から一週間ほど経ったある日。
普段ならペンションホネオリにも客足があるというのに、何故か閑古鳥が鳴いていた。
というのも今日は親不孝な三男坊が来るから。
ペンションのオーナーである久弥にしてみれば、呼んだときに来ず、逆に呼び出されるような格好で滞在を余儀なくされることにいささか腹の立つ話。
けれど、歳相応、どこか丸くなろうとしていたのかもしれない。
ペンションの外に車の排気音がした。送迎に行っていた文宏が帰って来たのだろう。
「いらっしゃいませ!」
それと同時に美羽が客を向えに行く。その声は普段より明るく、はつらつとしたものだった。
不審者騒ぎを起こしたお騒がせな恋人には罰としてペンションの運転手として働いてもらうことにした。今も送迎に力仕事、ほかに掃除からなにまでとこき使っていた。
彼自身、美羽とともに居られることを嬉しく思っているらしく、また妙に良い待遇に不安を持ちつつも、警察に突き出されるよりはとかいがいしく働いていた。
「あ、なんで? 病院はいいの?」
外から聞こえてくる声は驚きに満ち溢れたもの。
美羽はどちらかと言うと祖母に似て天然色の強い子だが、オーバーすぎるリアクションに久弥も若干苦笑い。
やがて扉が開き、見知った顔がやってくる。
「ふん、今更なにしにきおった?」
「父さん、そりゃないよ」
真面目そうな長身の男性はデニムのズボンに半そでシャツというカジュアルな格好でいた。その面白みの無い格好は彼の職業をよくあらわしているのだろうか、それとも単に他の兄弟たちに毒気を抜かれているのか?
「今日は父さんに会わせたい人がいてね……、ちょっと危ない橋渡ってきたんだから……」
「何が危ない橋じゃ。ワシなんか今日まで何回わたったか……そもそも、お前は冒険……」
「ささ、入ってください。足元に気をつけて……」
三男坊は父の長くなる話に聞く耳をもたず、扉を大きく開いて続く老齢の女性の手を引く。
「ん? あ、あんたは……妙さん」
「ふふふ、久弥君もすっかりおじいちゃんになったわね……」
白髪の老女は薄紫の着物に身を包み、優しい笑顔を向けていた。
それはかつてこのペンションホネオリでおいたをしたときに窘められたときを彷彿させる、そんな微笑。
「なんで……お前がしっとるんじゃ?」
視線は妙から移すことなく、それでも息子に問い詰める久弥。
「うん。父さんの絵の秘密だっけ? あれを解いた子から無理なお願いをされてね。
他県のデータベース、それも私用で覗くなんて結構苦労するんだよ? ばれたら……まあ減給ですめばいいけどさ」
物腰穏やかとはいえ彼もまた久賀家の一人。どこか食えないところがある。