僕とあたしの海辺の事件慕 最終話「色褪せても大切な日々……」-14
「なんですか? 理恵様」
亮治は優勢を維持するためなのか、わざとらしく明るい声で頷く。
「おとといの夜、澪ちゃんがお風呂場でなにか言ってたんだけど、ワインセラーに居ても聞こえたわよね? 私の部屋でも聞こえたぐらいだし……」
「ちょ、理恵さん!」
―― 一体なにを言い出すのよ!
「ええ、私が話した怪談がよっぽど怖かったんでしょうね……、多分その悲鳴でしょう?」
「え?」
一同、いや、弥彦と文宏、それに美羽を除いた全員が亮治を見る。
理恵は満足そうに胸を張り、真琴は顔を赤らめながらも確信を持った様子で亮治を見る。
「亮治さん、貴方、本当にワインセラーに居たの?」
最初に口を開いたのは公子。対し亮治は自分の失策に気付いていないらしく、キョトンとしていた。
「私はワインセラーで……澪さんの悲鳴を聞いた……だけ」
「ふふ、澪ちゃんは悲鳴なんて上げてないわよ。ちょっぴり……ね?」
いやらしい笑いを向けてくる理恵に、澪はただ視線を下げ、原因の一端である幼馴染の隣に行くとゴツンと音が出る強さで彼を殴る。
「痛いよ、澪……」
「真琴の馬鹿。あんたがあんなことするから……」
「でも、そのおかげで亮治さんのアリバイを崩せたでしょ? 亮治さん。おとといの夜はどこに行っていたんですか?」
「な、そんな、馬鹿……なこと……いや、だから……」
アリバイが崩れたわけではないにせよ、嘘をついていたのはかなり不利。また、動かぬ証拠、帳簿がある限り不正経理を指摘されるのは時間の問題。
それでもここで捕まるわけにはいかないと亮治は真琴の肩を突き飛ばし、強引に突破を目指す……が、
「はいはい、逃がさないわよっと!」
アルコールの入っていない理恵は音もなく亮治の傍らに忍び寄り、腕に絡みついたと思ったら次の瞬間容疑者を床に組み伏せていた。
「ぐえ!」
「動くと折れるかもよ?」
「さすが理恵さん」
真琴は尻餅をつきながらえへへと力なく笑うばかりで頼りない。
結局最後はこうなるところを見ると、どうも幼馴染は最後の詰めが甘いのかもしれないと、澪はオデコに手を当ててため息を着いた。