僕とあたしの海辺の事件慕 最終話「色褪せても大切な日々……」-13
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皆の視線が真琴に集まる。普段なら現国の朗読ですら照れてしまう彼が自信満々で胸を張っているのが、澪には少し癪だった。
「帳簿です」
「帳簿?」
「ええ。僕と澪、それに弥彦さんに共通するのはそれぐらいですから」
帳簿といえばそんなものもあった。けれど澪自身はそれを見ることもなく亮治に取り上げられてしまったので、特に襲われたり、怖がらせられたりするいわれも無い。
――もしかしてあたしが脅かされたのって真琴のせい?
「帳簿には赤い字がたくさんありましたね。でも、和弥さんの話だと、ここの経営はそこまで暗くない。黒字というほどでなくとも、トントンといったところですね?」
真琴は部屋の入り口のほうへ行くと、扉の前に立ってまた口を開く。
「不正経理……」
小さく呟く。
上目遣いは亮治を捕らえ、そして彼の小さな動揺を見逃すまいとしていた。
「私が不正経理ですか? それがばれるのを嫌って弥彦様を突き落とした? と……」
「では、おとといの夜、どこにいました? 美羽さんに弥彦さん。それに亮治さんの姿が見えなくなっていたんですけど?」
「その食堂の整理をしておりました……」
「僕も行きましたよ? 絵の秘密を解く鍵はどこにあるか分からなかったから」
――真琴、嘘ついてる。だって、おとといって言ったら……馬鹿真琴!
「いや、ガレージに居たかもしれません……」
「ガレージは美羽さんと文宏さんが居ませんでした?」
「えっと、はい」
「フミ君ってば私心配してきかないから……」
頭を掻きながら文宏が呟くと、美羽が袖を突くようにして顔を赤らめる。
「もしかしたらワインの確認をしていたかもしれません。だから会わなかったのかも
しれません。セラーは空調が大切ですから、基本的に鍵を掛けておりました。真琴様はそこも見ましたか?」
「そこは……調べてません」
――そりゃそうよ。だって真琴はそんな調査してないもん。
「でも、どうして嘘をついたんです? 澪を怖がらせてみたり」
「それはまあ、遊び心です。夏といえば怪談ですし、一種のサービスのつもりでした。不快感を与えて申し訳ございません」
窮地に立たされていたはずの亮治だが、徐々に勢いを取り戻しだし、逆に真琴はネタ切れなのか眉間に皺がより始める。
「以前、ワインの盗難があって、それ以来人が居るときでも内側から鍵を掛けております。アリバイは主張できませんので、信じてもらうほかありませんが」
「それは、そうかもしれません」
「……ねえ、亮治さん。ちょっといいかしら?」
窮地に立たされた真琴を見かねたのか、理恵が「はあ」とため息を着きながら前にでる。