僕とあたしの海辺の事件慕 最終話「色褪せても大切な日々……」-11
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ロビーでは弥彦が文宏を前に息巻いていた。
和弥がそれを宥めつつ、美羽はただおろおろしており、その他のギャラリーは皆どちらにつくこともせずに黙ってみているばかりだった。
「あら真琴く、さん。どこに行ってきたの?」
沙希がタオル片手にやってきて濡れた髪を撫でるように拭き始める。
澪も多少濡れてはいるものの、彼女の眼中には無いらしく、真琴にだけ付きっ切りだった。
「こんなときに帰ってくるなんて大変ね。今弥彦様が文宏さんと……あ、ちょっと真琴君?」
声を潜める沙希を制し、真琴は弥彦と文宏の前に出る。
「弥彦さん、落ち着いてください。文宏さんも……」
松葉杖片手の弥彦に椅子を勧め、文宏と距離を取らせる。
「真琴君。どいてくれ、私はどうしてもこいつが犯人だと……」
「いや、だから俺は犯人じゃないって……」
「ならなんでこのペンション周りをうろついていた?」
「それは、だから……」
「ほら見ろ! お前が犯人だからだろ!」
「弥彦さん、それだけじゃ犯人なんていえませんよ」
「しかしだな、私を運べるぐらいって言ったらこいつぐらいだろ?」
メタボ体型な弥彦とそれを抱えて移動した犯人。それなりの体格が必要となるのだろうけれど、和弥は背が高く腕力も人並み。理恵は空手などの強さはあっても肉体的にはそれほどでも無いらしい。美羽や沙希、公子に久弥は論外で亮治ならギリギリといったところ。
澪も真琴も当然無理なら残るのは文宏だけ。しかも彼はがっしりとしており、真琴ぐらいなら軽々と抱えられそうな体躯である。さらに言うと美羽目的とはいえペンション周りでうろついていたのも事実。かなり不利なのだろう。
「抱える必要はありませんよ。道具を使えば」
「道具? 一体何を使うって言うんだ? あんな岩場だったり海だったりするのに」
子供のたわごととあまり気に留めない風の弥彦は、もう文宏に噛み付くような視線を送り始める。
「それは傘」
「傘?」
真琴の続ける言葉に一同目を丸くする。
「傘でどうやって運ぶんだい? 大体弥彦を運べるほどの傘なんてあるわけ……」
半笑いになりながら言う和弥だが、何かに気付いたのか言葉の勢いが弱くなる。
「ええ、普通の傘ではむりです。けど、ここは夏の海です。ビーチパラソルの、それも業務用の大きいサイズがいくつもありますからね」
「で、傘ならどうして運べるんだ?」
「弥彦さんが外に出たのは夜だったので波も高かった。昨日確認したとき、僕の胸元ぐらいまで沈んでしまいました」
胸の高さよりやや下ぐらいを指す真琴。背の低い彼の胸の辺りだと亮治や和弥、文宏の下腹部辺りにくる。