僕とあたしの海辺の事件慕 最終話「色褪せても大切な日々……」-10
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雨の中、サーファーと呼ばれる人たちは波と戯れていた。
一体何が彼らをそうさせるのか分からないが、傘を差しながらそれらを見ている自分が場の雰囲気になじめていない気がした。
お気に入りのサンダルには砂浜のドロがかかり、ワンピースの裾も雨に滲んでしまっている。
ここに居ても意味は無い。
けれど、なんとなく……もう少し居たい。
いや、違うのかもしれない。
――あたしは探しに来ただけだからね……。海難事故とかありえないしさ。
波間に揺れる人影に幼馴染の姿は無い。けれど、澪はそれらを確認せざるを得なかった。
「澪ー!」
遠くに聞こえるのは、まだ声変わりの途中なのか低くもなく高くも無い、たとえ騒音の中でも聞き分けられるそんな声。
すぐに振り向くのが格好悪いので一瞬待ってからゆっくりと視線を移す程度。それでも走り寄ってくる彼を見ていると、少し気持ちが安らぐ。
それはあくまでも安心という意味に置き換えて。
「澪、どうしたのこんな雨の中」
「何よ、アンタがこんな中外に出るからいけないんでしょ? もう、ずぶ濡れじゃない」
「そうだっけ? はは、ゴメン」
「あたしに謝ってもしょうがないでしょ?」
「うん。それよりさ、僕分かったかも……」
目をランランと輝かせて何かを言いたがる真琴。きっとロクでもないことだろうけれど。
「あのね、パラソル。海岸沿いに隠されてあったのみつけて……澪?」
そんな話に興味はないと、澪は傘を片手に砂浜を一人行く。
「少し歩こうか……」
「……うん」
少年もまた、今話すべきことでもないと、それに倣った……。
◆◇――◇◆
ペンションに帰ると和弥の車が留まっていた。
どうやら弥彦も戻ってきていたらしく、怒鳴り声のようなものが聞こえてくる。
「あらら、なんだか大変そうね……」
傘を閉じようとしてそれをやめる澪。
「なんならもう少し歩く?」
どちらかと言うと彼女の方がそうしたいのかもしれない。
「ゴメン、澪。今は少しだけ我慢して」
「何が我慢よ。あたしは別にアンタと歩き……」
いつもの人懐っこい垂れ目がキレとでもいう光を持つ。その勢いに圧されてか、澪は次の言葉を飲み込み、ただその後に続いた。