やっぱすっきゃねん!VL-3
「そんなこと、有理ちゃんに訊けばいいじゃないッ」
「云えるくらいなら、何もおまえに訊いたりしねえよ」
「云わなきゃ想いは伝わらないでしょッ!」
友人としての真面目なアドバイスなのだが、直也は、視線を逸らして聞き入れようとしない。
野球では常に向上心を持ち、何事にも積極的に取り組むのに、恋愛となると別人のように消極的になってしまう。
佳代は少し、意地悪が過ぎたかなと思った。
「分かったよ、教えてあげる」
「……」
「今日のデートはね、原っぱに行くの」
「えっ…?」
呆け顔の直也。佳代の云っている意味が分からない。
「ついでに云えば、バットとグローブを持ってね」
「バットとグローブって…何すんだ?」
デートの話と思っているためか、直也は状況を把握出来ない。ついに佳代は業を煮やし、
「もうッ!野球の練習に決まってるでしょうッ」
そこまで云うと、先日、秋川から聞かされた自主練の件を話した。
「…アイツらが、そうだったのか…」
ようやく全てを理解した直也。“見えない努力”を聞かされて、思わず目元が柔和になる。
「それを聞かされた時に思ったの。“ああ、自分は甘えてたんだなあ”って…」
「甘えてたんだなあって、何だよ?」
直也の問いかけに、佳代は空を仰ぎ見た。
「不満だけで、精一杯やっていない自分に対して…」
選ばれながらも試合には使われない。それでも、くさらず努力を続ける秋川と加賀。
「そしたら、恥ずかしくなって」
「それで初日に直訴したのか」
佳代はコクリと頷いた。
「変えなきゃと思った。今のままじゃ、絶対、後悔するからね」
強い決意を聞かされ、直也は嬉しくなった。
「ところでよ、その自主練にオレも入れてくれないか?」
「そりゃ良いけど…アンタ先発なんじゃない。大丈夫?」
心配げに訊く佳代。しかし直也は、
「ウチは3日目だから問題ねえいよ」
気にした様子もない。
「だったらさ。〇〇町の洋食店知ってる?」
「ああ、アイツの親がやってんだろ」
「そこに2時だから」
「2時だな」
確認し終えた直也が、改めて佳代の顔を覗き込んだ。