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やっぱすっきゃねん!
【スポーツ その他小説】

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やっぱすっきゃねん!VL-21

 まさかの窮地に、ベンチから伝令が走り寄る。

「どうする?佳代」

 直也が訊いた。佳代は不安そうな顔を見せた。

「…細かいことは分からないけど、わたしなら勝負する」
「なんでだ?」
「どうなるか分からないけど、歩かせたら負けだと思う」

 真っ直ぐにグランドを見つめる佳代に、直也は満足した。

「良い答えだな。オレもそう思うよ」

 円陣が解けた。怖いほどの雰囲気が選手の身を固まらせる。
 バッターは3番。前の3打席で、まったくタイミングが合っていなかった。
 キャッチャーがサインを送った。が、ピッチャーが首を振った。この試合で初めてのことだった。
 2度、3度とサインを出すが、ことごとく首を振る。なんとしても抑えたい気持ちがそうさせた。

 ピッチャーは、4度目のサインにようやく頷いた。

 その初球。ダイナミックな動作から腕を振った。指先からボールを離す時、いつもより余計に力が入った。

 ボールが大きく逸れた。

 キャッチャーは必死に止めようとしたが、ボールは無情にも後方へと転がっていく。
 ピッチャーは、蒼白の顔でホームに駆け込んだ。が、3塁ランナーが傍を走り抜けた。

 1塁ベンチで、歓喜の声が上がっている。9回裏の同点劇、まして、いまだノーアウト3塁というシチュエーションに、スタンドもヒートアップする。

 キャッチャーがマウンドに向かい、ピッチャーの気持ちを落ち着かせようとする。
 しかし、土壇場で出てしまった自らの失策を、力に替えることが出来るほどピッチャーの心は強くなかった。

 結局、光陵高校は決勝に敗れてしまった。





 夕方。
 学校に戻り、解散した青葉中の部員逹の顔は、一様に重い。
 特にレギュラー組は、ひと言も発すること無く帰って行く。その表情は、焦りにも似た余裕の無さが見えた。

「大丈夫でしょうか?あの子たち…」

 葛城が心配気な声を漏らす。 永井は頷いて答えた。

「無理もありません。半分は手が掛かっていた甲子園が、あんなカタチであっさり無くなったのを、面りにしたんですから」

 永井や葛城は、少し違う角度から試合を見つめていた。

「あのゲーム。私は自分が采配したらと考えて見ていました。
 あの9回の場面。私も光陵高校の監督と、同じ采配だったと思います」
「じゃあ、同じように負けたと云われるんですか?」

 葛城の問いかけに、永井は首を縦に振る。納得の頷きだ。

「エースで負けたのなら仕方ない。そう思いました」

 選手と指導者の信頼関係。それが強ければ強いほど、チームはひとつにまとまる。

 “1日でも長く、このチームで試合がしたい”

 これまで、漠然と思っていた葛城の心が、強い信念へと変わった。


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