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緑原の雄姿
【その他 官能小説】

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緑原の雄姿-6

−『なんじゃこりゃ?』
辛辣な一言。私の写真を見ながら、隆一が言った。
『ごめん…』
謝る言葉しか出てこなかった。自分でも分かっていた。今までにない最悪の出来。
『ただ撮りゃイイってワケじゃないだろ?これじゃ、プロ失格だよな。』
ブレてるワケでもないし、構図が悪かったのでもない。明らかに【私の写真】とは違った。隆一も、それを分かっていた。
『例の事か?』
『それだけじゃないけど…』
問い掛けに、力なく答えた。
『じゃ、特効薬をくれてやる。明日は調教休みだろ?会ってくれるってさ、例の調教師。』
『ホントっ!?時間と場所はっ!?』
椅子から立ち上がり、問い詰めた。
『午後三時。ウチの会議室だ。俺とお前の二人だけでの取材って形にしといた。イイだろ?』
幸い、予定は入っていない。例えあったとしても、強制的にキャンセルしていただろう。
『ありがとうっ!』
隆一の手を握り、歓喜の声をあげた。
『しょげ返ったままじゃお前らしくないからな。自らで疑問を解決するんだな。』
『感謝してるよ、隆一。じゃ、また明日っ!』
はやる気持ちを押さえながら帰ろうとした。しかし、浮き足立っている私を隆一が呼び止めた。
『おいっ!今日の写真っ!!』
『あっ…ごめん…それで全部じゃなかったもんね…』

−部屋でビールを飲みながら、明日の事を考えていた。自分の希望。それを遂行出来る嬉しさと同時に、同じくらいの不安があった。
質問の事だった。私が聞きたい事は唯ひとつ。馬の生命について。
彼等に対しての調教、レースでの使い方、そして故障の多さをどの様に考えているのか…
データだけ見ると、明らかに彼等の命を削っているとしか思えない。しかし、人それぞれの考え方があるはず。それを聞かずに勝手に結論づけたくない。その思いが強かった。
私は無意識のウチに、彼のパネルの前に立った。
『明日…あなたと同じ様な死に方をした仲間の事を聞きに行くの。お願いだから、私に勇気を頂戴っ!』
必死の思いでの嘆願。そして彼の顔を見た。気のせいだろうか、少し哀しそうな感じがした…

−会議室の前。先方さんはもう、いらしてるらしい。隆一は急な仕事が入り、私一人での取材になった。もう後戻りは出来ない。覚悟を決めて、中に入った。
…ガチャッ!
『お待たせしました。本日は宜しくお願いしますっ!』
『ん、君かい?今日の取材の相手とやらは。』
いかにも人のよさそうなオジさん。ハゲた頭が、よりいっそう柔和な雰囲気を醸し出していた。
『はいっ!本日、取材させて頂く沢木と申します。』
『僕は向井と言います。今日は宜しく。』
落ち着いた口調。にこやかな顔で会釈された。私もつられて頭を下げる。
いよいよ始まったこの人とのバトル。私は聞きたい事、いや、ぶつけたい事を考えてきていた。
真実を聞きたい。多少、乱暴な手段になるとは思う。しかし、それにより相手の真意を引き出したい。私はそう思いながらレコーダーのスイッチを押し、質問を始めた。
『ストレートな質問をさせて頂きます。最近、向井厩舎の馬の活躍は素晴らしいですね。多数の重賞勝利馬を輩出してらっしゃいます。』
『いや、お褒め頂きありがとうございます。勝った馬には素質がある。我々の仕事は、その馬の素質を引き出すお手伝いをしているワケです。』
当たり障りのない質問と、それに対しての返答。いかにも模範的な発言だった。しかし、ここからが本番だ。私が一番知りたい事。核心に触れる時が来た。
『その反面、他の厩舎に比べ故障馬、特に競走生命に関わる重大なケガを負った馬も多く見受けられます。厩舎としての調教に何か問題でも?』
緊張感が室内に漂う。私の質問に対し、明らかに顔色が変化した。
『確かにご指摘の通りです。しかし、我々の調教方法に問題は無いと思います。』
先程と同じく、静かに語っている。少しの間を置いて、向井師がまた話し出した。
『脚部に不安を抱えたまま競走生活を送る馬も数多くいます。我々は細心の注意を払いながら調教し、使うレースを決めているのです。』
納得の出来ない答え。データを見れば一目瞭然。自らの行為に対しての言い訳にしか聞こえない。
我慢の限界。堰を切ったかの様に、私がまくしたてた。
『しかしですねっ!明らかにレース中の故障、それも予後不良に繋がるケガの多さは異常ですっ!これは一体どう説明するんですかっ!?』
私が一番言いたかった事。それを一気に吐き出した。
感情的。そんな言い方だった。しかし、向井師は何事も無かったかの様に、静かに話し始めた。
『予後不良…その事実は拭い去れません。確かに、我々が預かる馬達の中には故障してしまい、命を落とした者もいます。』
淡々とした話し方。しかし、ある種の信念を感じる。そしてさらに、向井師は続けた。


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