投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

緑原の雄姿
【その他 官能小説】

緑原の雄姿の最初へ 緑原の雄姿 9 緑原の雄姿 11 緑原の雄姿の最後へ

緑原の雄姿-10

−あの取材から、向井師とも親交を持つ様になった。私にとって、大きな成長の要因になった大事な存在。
『隆一君とは仲良くしてるかい?』
厩舎で話し掛けられた時は返事に困った。なぜなら、私の中には、隆一との愛の結晶が宿っているからだ。
まだ報告はしていない。でも、きっと喜んでくれるはず、そう思っている。
一緒に生きていく。隆一なら受け入れてくれる。ちょっとした自己満足ではあるのだか…
でも、今の私にとって唯一の心の支え。
ここまで人を大切に思えるなんて自分でも驚いていた。完璧に、私の中で何かが変わった瞬間だった…

−『このお馬さん、とっても綺麗だねぇ。』
女の子が母親に語りかけていた。
競馬場内にある博物館。そこで開かれた【名馬写真展】。そこに私の作品が飾られている。
正直な話、非常に照れ臭い。でも、色々な人達に観てもらえるイイ機会だった。
『このお馬さん、どこにいるの?』
父親に問い掛ける女の子。それを聞いて、話し掛けた私。
『このお馬さんはね、お姉ちゃんのとこにいるんだよ。』
そう、私が出展したのは彼の写真。緑原に散る前の彼の雄姿だった。
『イイなぁ〜。』
羨ましそうな目で見つめる女の子。将来、この子も私みたいになるのか。そう思いながら、頭を撫でた。

−博物館を出た私。いつも通りに撮影も終わらせ、競馬場をあとにする。お参りが効いたのか、みんなが無事にレースを終えた。
傷つき、命を落とす危険がありながらもレースに挑む彼等。その姿が戦地におもむく勇者に見える。最近になってそう感じる様になった。
彼等が命を懸けてまで闘う理由。それが分かった時、私の部屋にあるパネルの彼が、ほほ笑みかけたかの様に思えた。
死と隣り合わせ。しかしありったけの力を振り絞り、全力で挑む彼等に尊敬の念を憶えた。
そして、私はそれに全力で応えるべきなのだ。
彼等は生を受けた瞬間から戦いが始まっている。私がするべき事。それは彼等の強さ、美しさ、そして勇気を伝えるお手伝いをするだけ。それだけでイイのだ。
そう気付いた時、もう覇気のない写真だなんて言わせない。そんな自信も漲ってきた。
だが、それと同時に少しだけ自分が恥ずかしく思った。
素直になれない。それが私の中に残っていた。
彼等の真似ってワケじゃないけど、私も勇気を持たなきゃ。そう考えた。
そして、思い立った。
《優作に謝まらなきゃなぁ。》
…ピッ!
私は携帯を取出し電話した。もう、恐くない。そう思ったら何でも言えそうな気がした。
謝りたい。祝福してもらいたい。そして、優作に本当の気持ちを伝えたい。それだけだった。
〔もしもし…〕
『あっ、もしもし。優作?話があるんだけど、今の時間、大丈夫かなぁ…』


緑原の雄姿の最初へ 緑原の雄姿 9 緑原の雄姿 11 緑原の雄姿の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前