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緑原の雄姿
【その他 官能小説】

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緑原の雄姿-5

−『ああ、見てた。』
和哉からの返事。二人はあの時、建物内のモニターで観戦していたそうだ。
『で、その場面は撮ったのかな?』
優作に聞かれ、カバンの中から写真を出す。
『これ…』
見たくない。わざと顔を背けて渡す。
『完璧だな。キレイに折れてる…』
『実はこの馬を依託されてた厩舎って、今までにもこんな故障が多発してるらしいの。で、近いウチに取材に行こうと思って…』
『原因追求かい?』
写真越しに聞こえた優作の声。それを追い掛ける様に、和哉が口を開いた。
『六年前、思い出したのか…?』
無言でうなずく私。
『仕方ないよ…』
優作の口から洩れた一言。瞬時に反応した私。
『仕方ないってどう言う意味…?彼は仕方なく死んだって言うのっ!?』
『お、おい。朋香…』
『優作は分かってないっ!あの故障だって、育成してる人間がしっかり管理してれば起きなかったはずよっ!!』
私の声が店内に響く。圧倒的な迫力に気押されている二人。
『私の知ってる優作は、そんな事を言う男じゃなかった…アンタ、変わったよっ!!』
『朋香、イイ加減にしろよ。他の客に対して迷惑だろ。』
和哉の発言が火に油を注いだ。
『迷惑なら出てくわよっ!!』
財布の中から出した一万円。片手でクシャクシャに丸めて、優作の顔を目がけて投げ付けた。
『おいっ、朋香っ!!』
怒鳴り付ける和哉に耳を貸さず、店を飛び出した私。
…バタンッ!
力任せに扉を閉め、早足でその場を離れた。
《優作…》
悲しかった。優作の口からあんな言葉が…
昔から優しかった。落ち込んでいた私を何度助けてくれた事か。本当に優作の事を信じ、愛していた。
一方通行な感情。淋しさはあったが、側にいてくれてるだけで幸せを感じていた。それなのに…
駅に着いた時には、涙で顔がグシャグシャになっていた。周りの人達が道を空ける。
当然だろう。泣きじゃくった上に、異質な雰囲気を出した女。近づきたくなんかないはず。
《優作…》
思い出しただけでまた、泣けてきた。
…プシューッ!
電車の扉が開く。飛び乗った私。今の場所から少しでも遠くへ。それのみしか考えられなかった…

…ピピピッ!
携帯のアラームが鳴る。日曜日。今日もレースがある。気だるい体をムリヤリ起こし、バスルームに向かう。
《ヒドい顔…》
鏡に映った私。泣きまくったからか、異常なまでに目が腫れ上がっていた。
《それより支度しないと…》
急いでシャワーを浴び、着替えて外に出る。
『さっ、行くよっ!』
いつも通り、バイクを撫でる。
…ブロロロッ!
エンジン音を響かせ、競馬場へ向かった。

−今日のメインレースはトライアル。秋の訪れとともに、G?シーズンに入る。その為の予選。有力馬が多数、出走するので見所も多い。
『ふう…』
…ドサッ!いつもの荷物がやけに重く感じた。
ゴール前から100m前。そこに三脚を立てる。
『さて…』
いつもの様にファインダーを覗く。瞬間、昨日のシーンが脳裏をよぎる。
…ガシャッ!
そんな私などお構いなしに、ゲートが開いた。一気にスタートする馬達。望遠で彼等にピントを合わせる。
…パシャパシャパシャッ!
そして、最後のコーナーを回り長い直線へ。最後の力を振り絞り、坂を駆け上がる。
私の指が震える。全く動かなくなった…
一段と色濃くなる惨劇の記憶。強引にシャッターを押す。
…パシャパシャパシャパシャッ!
間一髪、ゴールシーンを撮影した。しかし、何故急に…
本命馬の勝利。横綱相撲でライバル達をねじ伏せたレース。目の前に広がる光景。そして、沸き上がる歓声。
だが私の頭の中には、昨日の惨劇しかなかった。また起こってしまうのではないか。また目撃するのではないか…
そのプレッシャーに負けた。
全ての撮影を終わらせ、荷物をまとめる。腑に落ちなかった。その気持ちを抱えたまま、競馬場を後にした…


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