僕とあたしの海辺の事件慕 第二話「不可解な出来事、しばし」-33
――幽霊だかなんだか知らないけど、ふふふ、良かった。澪が機嫌直ってさ……。
「ちょっと、何笑ってるのよ! あたしは必死なんだからね!」
少しでも内面が揺らぐと厳しい突っ込みが飛んでくる。ついでに頭を小突かれてしまうが、それすらも嬉しい日常の出来事。もちろん叩かれて笑うところを見せるのも変なので笑いを堪えたが。
「聞き間違いじゃないんだよね?」
ドアを開けると、キイと短い音が立つ。薄暗い部屋に廊下の明かりが差し込むと、質素な部屋が浮かび上がる。
暗い以外、別段変わったことも無いが、かすかに聞こえてくるのは波の音だろうか。
「声ねえ……」
半信半疑な真琴は不用意と思いつつ部屋の中央へと出る。
「ホントなんだからね! 嘘じゃないもん」
澪は部屋の前で立ちすくんだまま、中に入ってくる様子も無い。
「疑ってるわけじゃないけど、でも昨日は何も聞こえなかったんでしょ? 他にも僕の部屋ではどうだったの?」
「真琴の部屋? そういえば真琴の部屋でも聞こえたわよ」
「ええ、僕の部屋も? ……んー、おかしいな。あ、でも僕は……」
「そういえば真琴、こんな時間にどこに行って……」
無断外出に見る見るうちに表情が曇る澪。幽霊騒ぎから少しでも話題をそらしたいのか妙にご機嫌な怒りをあらわにしだし、
「ねえ、理恵さんの部屋は? 理恵さんに聞いてみようか?」
澪の様子に慌てた真琴は少しでも澪が大人しくなる話に戻そうと、必死で話題を振る。
「え? 理恵さんの? ……そういえば、理恵さんの部屋には聞こえなかったわ……多分、幽霊も理恵さんを怖れたんじゃない? あたしみたいなか弱い子を驚かせたいんだろうしさ」
幽霊の好みなど知らないが、おかしな話になる。
何故真琴と澪の滞在する二〇二、二〇三でのみ聞こえたのか?
「ん……、ちょっといい? 澪」
真琴は何かに気がついたのか、部屋を出るとそのまま元ナースステーションへと向う。
「ちょっと真琴、どこ行くの?」
一人で取り残されては溜まったものではないと必死にあとを追う澪。
「澪はそこで待ってて……」
けれど真琴はそれを制す。
「イヤよ! あたしも行く」
当然ながら必死になる澪。
「ダメだよ。そこにいないと幽霊の声が聞こえないから!」
「それがイヤだから行くの!」
もう恥ずかしさもなく、ただ恐怖体験を思い出したくないとばかりに真琴の腕をひしっと掴む澪。目には薄っすらと涙が浮かんでおり、掴む手の強さもすがりつく感じが強く、無碍に払うこともしたくなくなる。