僕とあたしの海辺の事件慕 第二話「不可解な出来事、しばし」-31
「それは久賀家の誰かだろ? 都会の息子を呼びせて美羽とお見合いさせるって!」
「お見合い? ハテ……なんじゃろう? ワシ、そんなこといったっけ?」
「誤魔化すなよ! その、そっちのガキか? そいつと美羽を!」
文宏は真琴を指差すと今にも飛び掛りそうな雰囲気で口の端から泡を飛ばす。
「な、僕は違いますよ。理恵さんとの連れです……」
「じゃあ他か?」
「他って言っても、和弥叔父様も弥彦叔父様も結婚なさっているし、公子叔母様は女性だし、結婚できるといっても……」
「ワシぐらいじゃな……、ばあさんにゃ悪いが」
しれっとして笑顔を浮かべる久弥に文宏はがくりと肩を落とすも、どこか安心した様子で「ふう」と息を漏らす。
「なんだよ、俺の勘違いかよ……」
「だから言ったじゃないの……、でもフミ君が私に本気だって分かって嬉しいよ」
床に手をつく文宏にそっと近づく美羽。
「美羽。俺にはお前だけなんだ、頼むから驚かせないでくれ……」
顔を上げる文宏は、キスが出来そうなくらいの距離にいる美和を抱き寄せ……。
「はいはい、ストップストップ。そいうのは他所でやってよね」
他人のラブシーンを見せられても虚しいだけと無理矢理中断させる理恵。どこか嫉妬めいた風があるのはおそらく楓のせいかもしれない。
「ね、それじゃあ弥彦叔父様が見た不審者ってのも君なの?」
「ん? ああ、昨日も美羽に会いに来たんだが、そんときあのおっさんに見つかってさ……」
「追いかけられたから逃げたのね……。まあ弥彦兄様だしねえ」
「ふむ、弥彦らしいわい」
どこか納得している公子と久弥。とはいえたかだか数時間程度の付き合いの澪でも久弥があわてんぼうでがむしゃらな人であるのは予想がつく。
「それじゃあ、そのあと島津さんはどこへ行ったんですか?」
「人気の無いほう無いほうって逃げてたら灯台の方についちまってさ……」
「そこで突き落としたとか?」
沙希が目の色を変えて口を挟むので、浅黒い青年も冷や汗交じりに首を横に振る。
「いや、何とか巻いたんだが、なんか別に人がいるような気がしてさ、ひとまず灯台に隠れてやり過ごしてたんだ」
「ああ、それで誰かが入った形跡があったんですね?」
「ああ、少し休んだしな」
「ふむ、文宏君とやらの話を信じるとすると、まだ他に不審者が居ることになるのお。かといって、君が嘘をついていない証拠もない」
「おいおい、爺さん、俺は弥彦さんを助けるのを手伝ったぜ?」
「そうじゃの……しかし、君がこの時間帯にワシのペンションに不法侵入をしていたのは事実じゃぞい?」
にやりと笑う久弥と言葉に詰まる文宏。現時点においてのパワーバランスは単純な力でも法的な力でも全て久賀家が勝っている。
「ああ、警察沙汰かよ……、親方にどやされる」
とほほと頷く文宏は小さくなり、床にしゃがみこんでしまう。その傍らでは健気に美羽が「大丈夫、元気出して」と励ましている。