僕とあたしの海辺の事件慕 第二話「不可解な出来事、しばし」-30
「美羽さん、彼……ええと、島津さんだっけ? 知り合いなの?」
このままではラチがあかないと理恵が口火を切る。
「はい。その、幼馴染って言うか、その……」
「恋人です」
モジモジした美羽に代わり、文宏が答える。
「えー!」
「うそー!」
すると沙希も理恵も口を揃えて声を上げる。
「なんだよ、悪いかよ?」
「だって、イメージ全然違うし……」
美羽のイメージはおっとりとした可愛らしい子。揃えられた髪と子顔のせいで実年齢よりも五歳は若く見え、メイドというよりもお姫様に近い。
対し文宏は海の男とでも言うべきか浅黒い肌と無精ひげ、茶色に染めた髪をオールバックにしている風など、まったくイメージが合わない。
「イメージって、別にいいだろ」
悪態をつくと言うよりいつものことと投げやりな態度の文宏。
話が前に進まないことに久弥は「コホン」と咳払いをして色話を制す。
「して、文宏君とやら、君はどうしてここへ……、というかペンションの周りをうろついていたのじゃ? まさか美羽と会いたいがためだけではないじゃろ?」
ペンション従業員とはいえ、四六時中拘束されているわけでもなく、ベッドメイキングや掃除が終わったら夕食の準備までは暇がある。会うだけなら夜中よりもその時間帯の方が容易というもの。
「それは、だから……」
林檎のような頬をさらに赤らめる美羽は見ていられないほどになり、俯き加減に「フミ君が……」と呟くばかり。
「島津さん。島津さんも知っていると思いますけど、弥彦さんが誰かに突き落とされたんです。犯人は分かってませんが、今の島津さんはすごく立場が悪いですよ?」
真琴が背中をさすりながら口を開く。その様子に沙希が「大丈夫?」などと声をかけているのに、澪は少し引っかかってしまう。
「島津さんは弥彦さんを助けるのに協力してくれたから疑いたくありませんけど、でもなんでこんな遅くにきていたのか、それを教えてくれませんか?」
責めるというわけではなく、諭すと言うほど上からでもなく、平たんな様子で淡々と語る真琴。皆の視線は文宏の返す言葉を聞き漏らすまいと彼に向う。
「美羽が、結婚するかもしれないから……」
結婚の一言に皆目が丸くなる。
「だから、それはフミ君の勘違いだってば……」
一人俯く度合いを強める美羽はか細い声を消え入りそうにさせながら彼を叩く。
「何? 美羽さんが結婚するじゃと? 相手は誰じゃ? ツマラン相手なら……」
久弥は顔を曇らせながら声を落とす。