僕とあたしの海辺の事件慕 第二話「不可解な出来事、しばし」-29
「……理恵さん、こっちです。こっちに不審者が!」
その時紗江の声と駆け足二人分。
「まずい! 逃げて!」
美羽は不審男性を庇うようにすると、ガレージの裏口を塞ぐように座り込む。
「美羽さん! 大丈夫? 何かされなかった?」
駆けつけた紗江は彼女の肩を揺すりながら声をかける。対し美羽はしゃくりあげて「あの、その、今……」と繰り返す。
経緯を知っている真琴にしてみれば、それは不審者を逃がす為の時間稼ぎに過ぎない。
「待て、逃がさないぞ!」
ガレージを出ようとする不審者に立ちはだかる真琴。
「あ、貴方は……」
なんと不審者は昼間見た男。弥彦をペンションまで運ぶのを手伝ってくれた文宏だった。
「なんで?」
「く……」
呆気に取られる真琴と切羽詰った文宏。本来ここに今いるべきでない文宏は真琴の隙を突き、その場を逃れようと必死。しかし……、
「はいはい、ごめんなさいね……よいしょっと!」
音もなく文宏の傍らに忍び寄った理恵は彼の腕を捻り上げ、間髪いれずに足を払い、埃っぽい地面にたたきつける。
「あが……」
せめてもの情け、背中から叩きつけられた文宏は一瞬呼吸困難になり、苦悶の表情と「ぐぬぬ」と呻き声を上げる。
「理恵さん、さすが!」
文宏を捕縛しようと駆け寄る真琴だが……。
「もういっちょ!」
「うわあ!」
軽々と腕を捻られ、そのまま地面に背中から落とされる。
「んで? 誰が悪いの?」
頬を赤らめる理恵は頭を掻きながら「あはは」と笑っていた……。
▼▽――△▲
騒ぎを聞きつけた久弥が、公子と一緒に応接間にやってくる。
急いできたのか興奮気味の彼は鼻息を荒げ、どこか楽しそうにしていた。
「で、君が不審者なんじゃな?」
久弥はソファに深く腰を下ろすと、ストレートに言う。対し背中を庇うようにしている文宏は憮然とした表情を返すのみ。
美羽は先ほどから文宏のそばに居り、打った部分にシップをあてがうなど、どこか彼を庇う風があった。
「あ、あの、オーナー、実はその……」
おずおずと前に出る彼女に周囲の視線が集まる。
文宏を拘束してから十数分程度だが、彼は未だ黙して語らず、ただ緊張した空気が流れていただけだった。そのためか、一層美羽への視線はきついものとなり怯んでしまう。