僕とあたしの海辺の事件慕 第二話「不可解な出来事、しばし」-28
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水を含んだサンダルは歩く度にぎゅうと水が絞り出され、足跡が点々と残ってしまう。
紗江は真琴の足跡を見て「コレは犯人の足跡かしら?」などと探偵気取り。
「ふむ、だんだん歩幅が短くなっておりますわ」
「もう、紗江さんってば……」
歩が遅くなるのは澪に会いにくいから。その理由は当然紗江との夜間外出にあるのだが、当初の目的も果たせず、あまつさえ……。
「はぁ……」
真琴は重いため息をつきながら、それでもペンションのほうへと歩いていった。
「あ、あれ? 誰かいる……」
灯りの下に人影が一つ。それは駐車場のほうへと消えていった。
――なんだろう。もしかして弥彦さんを突き飛ばした犯人?
突飛かもしれないと思いつつ、狭い範囲で連続する事象を関連付けたくなるのは道理。そして単純に不審者がいるのであれば身の安全、特に大切な誰かを守る為にも放置することはできない。
「……紗江さんは……理恵さんを呼んできて……」
女性を助勢に呼ぶのは情けないと思いつつ、空手に剣道、合気道有段者の彼女の手並みは並ではない。弥彦や和弥がいたとしても、一番頼りになるのはおそらく彼女だろう。
「……うん、わかった……」
紗江は頷き、音を立てないように慎重にペンションのドアへと向う。真琴も人影を追い、暗がりの方へと向った。
――こんなところに何の用だろう……。
暗がりの中、送迎用のワゴンに隠れるようにたたずむ不審者。
「……待った?」
ガレージの裏口のほうからもう一人やってくる。彼女は隅っこにあるスイッチを弄り、蛍光灯をつける。ぱっと明るくなる駐車場だが、光は弱くまだ薄暗い。それでも赤いカチューシャとまん丸おめめの人懐っこそうな彼女が誰か、すぐにわかった。
――なんで美羽さん? まさか、美羽さんは犯人とグル?
ペンション経営権を巡る久賀一家の争い。そこに暗躍するは美人従業員の美羽。愛嬌のあるほんわかした仮面の下で光るのは、金銭欲に塗れた錆び色の瞳。
サスペンスドラマの見過ぎと笑いつつ、真琴は息を潜めて成り行きをうかがう。
「美羽、あの話……」
若い男の声だった。
「だからあ、そんな話ないってば。フミ君の勘違いだって……」
「だいたいあの久弥って爺さん胡散臭いんだよ。何かって言うとお前を贔屓してるっぽいし、本当は……」
低くもなく、高くも無く。ただ、彼女を呼ぶ声には自信のようなものがあり、どこか鷹揚としていた。
「それはまあ、私も不思議に思ってるけど……」
どこかで聞いたことのある声だが、それは果たしてどこだったろうか? 首を傾げたところでそれは分からない。