僕とあたしの海辺の事件慕 第二話「不可解な出来事、しばし」-27
――だいたいさ、アイツは女の子をなんだと思ってるのよ。好きってそんな軽いもんじゃないのよ? だってそうでしょ? あたしは平気だけどさ、処女っていうの?
女の子にはすごく大切なもんじゃない? その、一般的にね、あたしは別にそうじゃないけど、人によってはそれを捧げたイコール結婚なんてのもあるわけじゃない。それなのに、どうしてアイツはああも簡単にエッチしちゃうのかな? 他の子に手を出すのかな? そんなにもてるとでも思ってるの? 馬鹿じゃない? あんな男女、ショタコンぐらいしか相手にしないわよ。あたしの場合はその、幼馴染で、守ってあげたいっていの? その、しっかりしてもらいたいっていうか、男として、その、成長してほしいっていうのがあったからだけど……、そりゃまあ、あたしだって真琴のこと……好きよ。好きって言われて嬉しかったし、だから、いいかなって思ってさ……でも、なんで紗江さんと? あたしを誘えっての! 馬鹿真琴。こんなんじゃあたし、真琴のこと信じられないよ……。お願い、真琴、もっと……。
……てく……れ……
「!?」
周囲を見渡す澪。
薄暗い部屋には自分以外に誰もいない。
――きっと理恵さんよ。あの人、お酒呑むとすごい人変わるしね……えへへ、あはは、うふふ、そうよね……うん。そうだ……。
……痛い……傷口が……
窓の方から再度誰かの声。
――嘘! でも聞こえた! 空耳じゃないよ。なんで? だって、そんな、夏だからって怪談とかありえないし、それに、そんな話……あるわけ? ……そういえば、昔ここ病院で、しかも隔離病棟だとか……。
思い出されるのは亮治の話。
ハンセン氏病患者を集め、遺体はすぐそばの崖から捨てていた……。
――そんな、幽霊なんているわけ無い。きっと誰かのイタズラよ。そう、真琴だわ! アイツ、あたしに冷たくされたからってこういうイタズラしてくるのね。うん。よし、ちょっと懲らしめにいってあげないと!
タオルケットをふっとばし、スリッパすら蹴飛ばす勢いで部屋を出る澪。彼女は早速二〇二号室のドアを乱暴に叩く……が、抵抗無く開いてしまい、そのまま中央へと歩みでてしまう。
「と、ととと……? 真琴? いないの?」
部屋の隅には大きめのリュックとテーブルに携帯が置いてあるだけで、肝心の主の
姿が無い。
……ノロッテヤル……
例の声はこの部屋にも怨念があるらしく、低くくぐもった、恨みがましいそれが響く。
「やだ、そんなの……そうだ、理恵さん……理恵さんは?」
こうなったら酔っ払いでもいないよりましと、さらに隣の部屋を叩く。二〇一号室もまた開けっ放しらしく、難なくドアが開く。けれどやはり主は居らず、脱ぎ捨てられたスーツがベッドにあるのみだった。
――やだよう、どうして皆いないの?
耳を塞いで立ち尽くす澪。しかし、それでも忍び寄る音。
……あっはっはっは、それは言いすぎですわ、おじい様……
……何を言う。ワシは本当に……
――え?
のん気な笑い声は理恵と久弥の声。どうやらこの部屋には怨霊の声も
「……あ、そっか、下で飲んでるのか……うん」
取り乱したものの、幾分冷静さを取り戻せた澪は一呼吸おいてから部屋を出る。このままここに留まっていても例の声に怯えるのみだろうと思いつつ、彼女は灯りの漏れる階下を目指すことにした。