僕とあたしの海辺の事件慕 第二話「不可解な出来事、しばし」-26
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「紗江さん、しっかり掴まっててくださいね……」
「うん」
夜の海、浜辺どころか岸壁に近い道なき道を行く二人。真琴は紗江の身体をしっかりとお姫様抱っこし、紗江が彼にしがみ付くように抱きつくのを嫌がらなかった。
目的であった検証はどこかへやら? それでも今二人で築いた幸せの余韻に浸っていたかった。
「ん、もう下ろしていいよ……」
崖の下の岩場まで来ればあとは濡れる心配も無い。もっとも彼女は水着にパーカーという濡れても良い格好であり、むしろ真琴のズボンやシャツの方が酷かった。
「もう少し……いいじゃないですか」
もやしっ子な真琴の腕はもう限界近い。けれど男子としての矜持がそれに延長を求めていた。
「んーん、ダメ。君には澪ちゃんがいるんでしょ? これ以上抱っこされてたら、私ホントに君のことほしくなっちゃうしさ……」
鼻をちょんと突く紗江。お互い快楽を貪りあった仲なのに、今だ自分は子ども扱いと、真琴は悔しさを覚える。とはいえ澪は……?
「はい。我侭言ってごめんなさい」
ゆっくりと腰を下ろし、彼女を下ろす。
「あ、でも、こんなところ見られたらまた澪ちゃん怒るかもね? そしたらどうする?」
今更気付いたとばかりに言う紗江。そもそも彼女が澪の前で「待ってるから」といったのが原因なのに。
「え、それは……」
とはいえ澪にそんないい訳が通用するわけもなく、また彼女を怒らせたまま。現状を回復させる方法など一つも無いのだ。
「ひとまず帰ってから考えますよ……」
紗江はとぼとぼと歩く真琴の後姿をクスリと笑い、小さくくしゃみをした。
▼▽――△▲
澪は一人自室でタオルケットにくるまっていた。
シャワーを浴びても気が晴れない。仕方なくロビーにいくも、酔っ払ったまんまの理恵の相手をするのもめんどくさい。かといって真琴を待つまねは惨め過ぎる。
だから一人で寝ることにした。
――なによ、真琴の馬鹿。ちょっと可愛い子がいたらすぐに手だしちゃって、ほんとやらしいの。っていうかさ、近くにあたしみたいな素敵な女がいてどうして浮気とかするわけ? おかしくない?
だってさ、あたし達、その、しちゃったんだよ?えっち……さ。
頭の中で渦巻いているのは浮気性の彼氏のことばかり。
そこにいないというのに思考を支配する彼にさらに腹を立てしまう、まさに無限ループに陥っていた。