僕とあたしの海辺の事件慕 第二話「不可解な出来事、しばし」-2
「それより真琴君は何をしていたの?」
頭一個背の高い彼女は前屈みになって顔を見てくる。
「えっと、絵のことを調べようとおもって……」
「ふうん。絵ねえ……。私はパス。頭使うの苦手だし」
舌を出して笑う彼女はどこか子供じみている気がする。
「父さん、今も仕事仕事ってしてるけど、母さんが亡くなってからはやっぱり寂しいみたい。だから昔のこととか急に穿り返してね……」
「はい。でも、素敵じゃないですか。昔の女性のラブレターを探すなんて」
「女性? ラブレター?」
目を丸くして聞き返す公子は、意外性と好奇心に満ちた眼差しを向ける。
「あ、いや、そのラブレターかどうかは分かりませんが、でも多分そうなんじゃないかな。だって久弥さん、女性のために絵を描いたんでしょ?」
「ああ、そういえば女性のためとか言ってたわね。でも、なんで父さんが持ってるのかしら? 普通誰かのために描いたのならプレゼントするんじゃない?」
「それは多分……」
いいにくそうに視線を下げる真琴。後手で後頭部を描くこと数回、公子もようやく気付いたらしく「ふふ」と笑う。
「振られたのね、父さん」
「多分」
しばし笑いあう二人。もしこの場に久弥がいたらどうなるのだろうか?
「でも、君が謎解きをしてくれるとなると父さんも張り合いがあるかもね。それで?
今度はどこを探すつもりだったの?」
本題に戻り、真琴は東の灯台を指差す。遠目には気付かなかったが、外装もかなり剥げており、白とコンクリートの青みがかった灰色がまだらをなしている。
「えっと、あの絵にあった灯台をちょっと見ておきたくって、それで……」
「のぼってみるの?」
「ええ、でも……」
「まあいいんじゃない? 誰も見てないし……」
いつの間にか亮治の姿は無く、代わりに丘で羽を休めるウミネコが数羽。それらも真琴の視線を感じたのか飛び去ってしまった。
「それじゃ、少しだけ……」
黄色と黒のロープを跨ぎ、二人は階段を登ることにした。
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地上おおよそ十二メートルの高さの灯台を上る方法は螺旋階段のみ。しかも、一段一段が高く、狭くてのぼりづらいものだった。
西の灯台が解放されていないのはそれが原因だろう。
二人は息も絶え絶えになりながらようやく展望室へと入る。
中はこれまた狭く、テーブル一つに椅子が四つ、おそらく制御の為の機械なのだろうモノが並んでおり、どれも動きそうに無かった。
「なんか、つまらない場所ね……」
公子は散らかった部屋を見てため息をつくだけ。
しかし、よくよく見れば違和感の多い部屋でもある。
割れた窓から潮風が入りこみ、黴臭さや埃臭さはなく、かわりに錆びのような匂いがする。また最近人の出入りがあったのか、三つの椅子が不自然に並んでいたりと妙な感じがした。
「誰かいたのかな……?」
椅子を念入りに調べるとごはん粒のついた包装紙が落ちている。その粒は干からびているものの、まだ新しく、おそらく昨日から今朝にかけてのものと予想する。