僕とあたしの海辺の事件慕 第二話「不可解な出来事、しばし」-15
「そこなのよ。だからつまらないのよね……」
握った拳を下ろす彼女は「はあ……」と切ないため息を漏らす。
「なんか面白いこと無いかしら……」
「だから事件が起こったじゃないですか」
少々不謹慎と思いつつ、真琴は苦笑いする。
「けど、御前町はリゾート地よ? こんな人の出入りのある場所じゃ、犯人だってもうどっか行っちゃったんじゃない?」
「う〜ん。多分そうだろうけど……」
当初、真琴もそう考えていた。しかし、全身打ち身すり傷多数、右足首捻挫の弥彦が岩場で発見されたことを踏まえると、その事実が突発的な事故というよりも、起こるべくして起きた事象に思えてならない。
「で、運べるの?」
「正直やってみないと……」
「ならさ、私を運んでみたら? ここからあの崖の下まで」
笑顔で言う彼女は真琴に抱きつき、「うふ、お姫様抱っこがいいな」と耳元で囁いた……。
▼▽――△▲
「真琴さんて、澪さんの彼氏なんですか?」
昼さがりの穏やかな午後、澪と理恵は休憩中の美羽と一緒に暇つぶしがてらババ抜きをしていた。
そんな中、突然の質問に澪は面食らってしまう。
「あ、いや……その、ね……あはは」
「澪ちゃんと真琴君は付き合ってないそうよ。いわゆる恋人未満、せふ……」
「理恵さん!」
「れ」がきてはたまらないと続く言葉を遮る澪。彼女の中では、「真琴は恋人以下の関係」が正しいのだから。
「へえ、でもすごく仲が良くて羨ましいです」
羨望の眼差しを送る美羽は「はぁ……」とため息を漏らして理恵からカードを引く。そして「げげ」と一言。どうやらジョーカーを引いたらしい。
「美羽さんはいないの? ステディな人」
面倒なカタカナ語を使う理恵は新たな獲物ににやりと笑いながら水を向ける。
すると美羽はモジモジした様子で俯きだすので、澪も理恵も「いるな」と断定する。
「ちょっと勘違いすることのある人で振り回されちゃうし、疲れるところあるんですよ。でも、一度決めたらこうっていうか、すっごい行動力で……」
「へえ、なんか真琴とは大違いね……」
澪は彼女から一枚カードを取り、ペアになったものを捨てる。
「そんな、真琴さんだって素敵な方ですよ。それに可愛いじゃないですか」
およそ誉め言葉ではない感想に澪は頭を抱えてしまう。
最近男子としての成長が見え始めている彼だが、それは普段から粒さに観察しているからこそ分かること。昨日今日初めて会った相手からすれば、子犬のような目をした可愛らしい男の子でしかない。
「ペットとしてはいいわよね……っと」
澪から一枚引いたところで残り二枚、理恵は勝ち誇ったように胸をそらす。