僕とあたしの海辺の事件慕 第二話「不可解な出来事、しばし」-11
◆◇――◇◆
真は一番近くにあった海の家に飛び込み、従業員に訳を話すと、ビニールボート一艘と若い男性アルバイト店員の協力を得る。
「えっと、その怪我した人って……」
小脇にボートを抱えながら店員が声をかける。
「はい、どういうわけか遊泳禁止の岩礁地帯にいて……それで」
「そうか、そうなんだ……」
彼は何かを言いかけたようだが、今はそれに気を取られている場合ではないと、真琴は息が切れそうになるのを我慢しながら、例の岩場へと急いだ。
岩場近くには公子が居り、おそらく彼女が呼んだのだろう和弥の姿もあった。
「真琴くーん、早く早く……」
急かされる彼だが往復数百メートルは、いくら人命救助をかけていたとしても無視できる負荷ではなく、ボートを和弥に託すとそのままへたりこんでしまう。
「す、すみません、すぐ立ちますから……」
「いや、真琴君は休んでいてくれ……。君、すまないが手伝ってくれ」
「はい……」
和弥はアルバイト店員を連れ立って弟の待つ岩礁地帯へと向う。
「僕も……」
「真琴君はここで待ってたほうがいいわ。危ないし、それに……」
負荷に耐え切れず笑ったまんまの膝は、しばらくいう事をきいてくれそうに無かった。
岩場で呻いていた弥彦は膝や腕に切り傷があり、右足首を強く捻挫していた。
ただ、あまりに痛がるために骨折かもしれないと、和弥はボートを担架代わりにすると、アルバイトに公子、真琴の四人がかりでペンションホネオリまで運び込んだ。
ただし、ペンションのテラスをくぐるとき、そのネーミングセンスに苦笑いしていたが……。
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ペンションに戻ると窓辺でティータイムに興じていた久弥と美羽は目を丸くして驚いた。
美羽は慌てながらも包帯とシップ、消毒液に胃薬まで持ってくると、長椅子に横たわる弥彦の手当てを始める。
「ありがとう、助かったよ。真琴君に……えっと……」
応急処置を受ける弥彦を尻目に、和也は深々と頭を下げる。
「島津です。島津文彦ともうします」
アルバイトの男性は照れくさそうな、どこか居心地の悪い笑顔を浮かべつつ、名乗る。
「島津さん。とにかくありがとう。今は立て込んでいるんで申し訳ないが、後でお礼をしたいから連絡先を……」
「あ、いえ、監視員として当然ですので、別にそんな気を遣っていただくことは…
…」
何かに気をとられているのか、文宏は心ここにあらずという風に周囲をきょろきょろと見渡している。
「あ、あの、それじゃあお昼、ご馳走しましょうか?」
「あ、そうですね。ちょうどお昼休みでしたから、それなら遠慮なく」
包帯を巻きながら美羽が言うと、態度をころっと変えて従う文宏。もっともショートヘアのまん丸おめめ、はにかむ笑顔に笑窪常備の彼女に微笑みかけられたら、それを断れる男も少ないのだろう。