僕とあたしの海辺の事件慕 第二話「不可解な出来事、しばし」-10
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まだ腰砕けの公子を残し、真琴は一人階段を落ちるように駆け下りる。
「弥彦さーん、弥彦さーん! 返事をしてくださーい!」
崖の上から手を振り、大声を上げること数回、
「……おお、助けてくれー、動けないんだー……」
どうやら生きているらしく手を振り替えしてくれる。ただ足を怪我しているのか座ったままでいた。
崖を降りようかと思うも傾斜六、七十度、高さは十メートル以上。波しぶきが定期的に上がっているが、尖った岩肌も目立ちかなりの勇気がいる。
ひとまず迂回する真琴だが、よく考えてみれば怪我をしているらしい彼を一人で運べるはずも無い。しかも周りは海に囲まれており、抱えて泳ぐなど不可能。
――そうだ、貸しボートを使えば!
真琴は一路、海の家へと走った。
▼▽――△▲
「あれ、真琴君じゃない?」
波間に浮かぶビニール筏に掴まりながら理恵が砂浜を見つめて言う。
「真琴なんか、今どうでもいいです」
誘われるまま足の届かない場所まで来てしまったことを後悔する澪は、内心それどころではなく、必死に爪先を立てる。
「なんか必死に探してるっぽいけど、もしかして澪ちゃんのことさがしてるのかもね」
楽しそうに言う理恵は最愛の彼女を探す彼を笑っているのか、それとも目の前であがく澪を笑っているのか?
「そんなことよりも、もう浜に戻りましょうよ。あたし、足つっちゃいます……」
浮かんだり泳いだりするという発想は無いらしい澪は、実のところカナヅチ。本来なら浮き輪必須の彼女だが、見栄を張ってレンタルしなかったのが間違いのもと。
「うふふ〜、もう少し楽しみましょうよ……」
それを見抜いていた理恵はサディスティックな笑いを浮かべながら、さらに沖のほう、遊泳禁止のブイが浮かぶほうへと筏を押し出す。
「ちょっと理恵さん?」
眉間に皺を寄せて抗議の声を上げる澪。しかしそれすらも理恵の好奇心を煽る燃料にしかならず……。
「ささ、どんどんいきましょうね〜」
澪はさらに沖へと流されていった……。