僕とあたしの海辺の事件慕 第一話 「思い出のペンションは元病院」-8
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腰砕けになっている澪をどうにか食堂まで連れて行った真琴は、夕食までの間、荷物を部屋に持っていくことにした。何故か理恵の分も持っていくことになったが、泊めてもらうのだからと文句も言えない。
階段はどこか学校の階段のようなつくりでやけに幅が広い。もともとが病院だとすれば人の出入りもあるのだと納得がいく。
二階につくとカウンターのような窓口のある一室があり、そこを中心にシンメトリー構造になっていた。
西側は二〇一から二〇三まであり、東側は二〇五から二〇六まである。
「えっと、真琴さんの部屋はこちらで〜す」
従業員の進藤美羽は間延びした声で手招きする。
彼が案内された部屋は二〇二号室。
部屋はどれも六畳一間の一人部屋らしく、ベッドとタンス、テレビやシャワーは無いものの、トイレが設置されていた。また、大きめな窓からは御前海岸が見え、遠くには小高い丘と灯台の明かりが見える。時折吹く潮風が心地よく、風鈴のリーンと言う音がすがすがしい。
「結構広いんですね」
「ええ、もともとは二人部屋だったところを一人部屋にしたみたいですから」
「やっぱり病院だったんですか?」
シックな色合いの壁紙で舗装されているが、周囲にある金属の手すりは錆が目立つ。
「ええ、でもずっと前だし、今は街の方に移ったみたいですよ」
――澪が怖がるかもなあ……。
荷物の整頓もそこそこに、理恵の部屋、二〇一号室へ行く。
元病室であった部屋のつくりはほぼ同一であり、隣の部屋から伸びている手すりが切断されていた。また、窓が一つ多く、外に灯台が見えた。
「ふう……重かった」
「理恵お嬢さんはこの部屋が好きなんですよ」
「外が見えるし、いい部屋ですもんね」
「うふふ。それだけじゃないですよ」
含み笑いをする美羽は優しそうな垂れ目をにやつかせ、カチューシャで纏められた前髪を揺らしながら今にも大笑いしそうになるのを我慢している。
「どういうことです?」
「うふふ、内緒です」
ピンクの唇の前で人差し指を立てる彼女に、真琴は可愛らしいと思っていた。
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荷物を置いてくると、既に夕飯の支度がされていた。
食堂は診療室を改造したのだろうか? ならば調理場は手術室……?
不気味な想像に首を振る真琴は、澪の隣に腰をかける。
白いテーブルクロスの引かれたテーブルの上には不釣合いかもしれないが、尾頭付きの鯛の刺身があり、アジの叩き、わかめとエビ、ホタテのサラダにハマグリのお吸い物。山菜の味付けごはんから良い香りが漂い、空きっぱなしのおなかがキュウと鳴る。