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僕とあたしの海辺の事件慕
【ラブコメ 官能小説】

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僕とあたしの海辺の事件慕 第一話 「思い出のペンションは元病院」-7

「ごめん。転んだせいで……、波で見えなかったし、わざとじゃないよ」
「どうだか……、大方あたしの魅力にのぼせちゃって触りたくなったんでしょ?
エッチ」
「かもね」

 唇の端っこを上げて笑う真琴は手をどけようとしない。それは澪も同じで拒む気配が無い。
 波が引き寄せるたびに起こる歓声はウミネコの声とそうかわらない。けれどカラフルなボールが二人を現実に戻す。

「ちょっと、いつまでそうしてる気? もう、これだからカップルは……、やっぱり楓も連れてくるべきだったかしら?」

 「はあ」とため息をつく理恵に、真琴も慌てて立ち上がる。彼は澪に手を差し出すも、彼女はその手を払い、ボールを拾い上げる。

「カップルなんて……、別にあたし達そういう関係じゃありませんよ」
「澪……」

 ――どうして?

 乙女心と秋の空。遷り変わるは必然としても、どこか納得の行かない真であった……。

▼▽――△▲

 夏の海を楽しんだ三人は、日が沈む頃にようやく家路についた。

「はぁ、海は楽しんだけどさ、後始末がね……」

 海辺のシャワーを浴びたものの、まだ潮の香りが漂い、またべとつく感じが不快だった。

「そうですね。早くお風呂はいって落とさないと」

 澪は皮膚に張り付く塩をパラパラと落としながら、ニガリと塩気のある腕をぺロリと舐める。

「でも、なんだか怖い建物よね……このペンション」

 日が落ちると玄関に飾られていた時代めいたランプには電気が通っており、親指大の蛾が群がっていた。

「まあね。っていうかここ、昔病院だったし」
「え?」

 衝撃の告白に目を丸くする澪。彼女は幽霊や物の怪の類は好きではなかった。ホラー映画を見るときは部屋を必要以上に明るくし、トイレは見る前に行き、観覧中は絶対に水分を取らない。さらに言うと夏であっても毛布を頭から被り、窓は絶対に開けないほどの徹底振りだ。
 もちろん病院が怖いわけではないが、それについてくる尾ひれはひれには、例え嘘であっても拒絶反応を示してしまう。

「大丈夫だよ、澪。そんなに怖がらなくてもさ」
「あたしは別に怖がってなんか……」
「そうよ。皆気のいいお化けだし!」
「いやー!」

 耳を塞いで金切り声を上げる澪はそのまましゃがみ込み、宥める真琴の言葉にも首を振るばかり。

「うふふ、冗談よ……」
「どうかなさいましたか?」

 扉が開き、中から中年の男性が顔を出す。黒のズボンにワイシャツ、蝶ネクタイ。
前掛けのような茶色のそれはタブリエと呼ばれるらしく、身なりから判断するにソムリエなのだろう。

「あら三崎さん。あはは、ちょっとイタズラが過ぎてね、それで……」
「はは、そうでしたか。私はてっきり出たのかと思いましたよ。もうすぐお盆ですし」

 状況を把握した三崎はにやりと笑うと口裏を合わせる。

「やめてー!」

 ようやく立ち上がったものの再び尻餅をつく澪。海辺のひとときは楽しかったものの、ペンションホネオリに不安を抱いたのも事実だった。


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