僕とあたしの海辺の事件慕 第一話 「思い出のペンションは元病院」-6
「くー、なんでよ〜、悔しい! 悔しい! 真琴、アンタなんか作戦無いの?」
ハンカチがあったらきつく噛み締めていそうな澪は、真琴をきっと睨む。
「えっと、そうだな……。そうだ、これなら……、澪、僕の言うタイミングでアタックして!」
真琴はビーチボールを空高くトスし、理恵を見る。
「ん? うん、分かった!」
滞空時間の長いボールはしばらく落ちてこず、理恵も澪も上を向いたまま。
「あ、理恵さん、紐、外れてますよ?」
結び目の弱いブラの辺りが緩んでいたのを、真琴はしっかり見ていたらしい。
「え? 嘘……あ、あれ?」
二人を翻弄していた理恵だが、その動きがたたってあわや大惨事、いや珍事、さもなくば嬉しい出来事を引き起こしそうになっていた。
「きゃあ!」
はらりと煽情的な紫の布が落ちたとき、理恵もしゃがんで胸を隠していた。
「今だよ、澪!」
「おっけー! あたーっく!」
好機を見定め澪は軽くボールを叩く。ビーチボールは柔らかな軌道を描いて理恵の頭でポンとバウンドした。
「くう、卑怯なり……」
手探りで布を手繰り寄せる理恵は、上機嫌でハイタッチする二人を睨んでいた。
「理恵さんが悪いんだよ。そんな脱げやすい水着を着てるから」
視線に気付いた真琴は二度目となる「出し抜き成功」に大満足。しかし……、
「えい!」
水着を正した理恵は、大きめの波に流されそうになる二人の両足めがけて足払いをかける。
「うわあ!」
「ひゃっ!」
三、四十センチ程度の波に洗われる格好の二人……。
「もう、酷いよ、理恵さん……」
「私を笑った罰よ」
砂に塗れてしょっぱくて苦い海水をぺっぺと吐く真琴。どこか既視感のある台詞に首を傾げながら、ひとまず立ち上がるもふにっとした感触が右手にある。
昆布にしては柔らかく、イソギンチャクやヒトデのいる水域でもなく、クラゲ注意の看板も無い。
「馬鹿……」
目の前では腰を波に洗われる格好の澪が恥ずかしそうな上目遣いをくれていたが……?
「どうしたの澪?」
波が引くと水域が下がり、脚の下の砂がささーっともって行かれる感覚がむず痒い。けれど、それすら忘れてしまうのは、右手が触れる部分。
パレオの隙間から柔らかそうな太腿がこぼれ、右手はしっかりとそれを揉んでいた。