僕とあたしの海辺の事件慕 第一話 「思い出のペンションは元病院」-4
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夕飯までの間、澪達は御前海岸へと繰り出した。
「ふぁー、きんもちいー!」
潮風を頬に受けると、太陽の陽射しすら心地よい熱さになる。
今年の夏は着ることも無いと封印していた黄色のセパレートに身を包む澪は、腰にハイビスカスが描かれたパレオを巻いていた。
「あら、可愛らしい水着ね」
パーカーを着たままの理恵はサングラスをしながら日焼け止めを両足に塗っている。
「ふふーん。どうです? 結構がんばったと思いません?」
腰と頭に手を当て若干古臭いグラビアのポーズを決める澪を、何か微笑ましいものとばかりに見つめる理恵。
「ねえ、澪ちゃん、背中に塗るの手伝ってくれない?」
「はい、いいですよ」
シートに寝そべる理恵がパーカーを脱ぎ捨てると、紐と申し訳程度の布地が大切な部分を隠すというハイビキニが顔を出す。
「うわあ、理恵さん刺激的……。っていうか、女のあたしでもドキドキしちゃいます……」
紫の布地には蝶の刺繍が施してあり、スレンダーで長身だからこそ似合うというもの。
これでは力を入れたつもりの澪もまるでお子様の域に留まり、ちょっとだけ後悔の念がわいてしまう。
理恵はがシートにうつ伏せになると、さっそく澪はオイルを手に塗り、丹念に塗り伸ばす。
「理恵さんの肌、スベスベ……」
「んー、そう? 自分じゃわかんないわ……」
赤ん坊の肌といえば言いすぎだが、それでもしっとりとした手触りと、指が吸い込む感覚が楽しかった。
――真琴のお尻もこんなんだったな……。
逃げ惑う彼にしがみ付き、ちょっとだけ爪を立てた。柔らかいそれには赤い筋が走り、すこし気の毒でもあったのを覚えている。
「そういえば真琴君は?」
「えっと、ちょっと買い物に行ってもらってて……あ、来た」
ジュースのパックとイカのポッポ焼き、焼きそばのトレイを重ね持つ彼はバランスを取ろうともたもた歩いている。
「遅いぞ、早くこーい!」
「待ってよ〜……」
急ぎ足になるも、目の前をチョロチョロ動く子供達に道を阻まれ、何度となく立ち往生。
澪は仕方なく受け取りに行くことにした。