僕とあたしの海辺の事件慕 第一話 「思い出のペンションは元病院」-15
「なら、今日は一緒に寝る?」
「え?」
「僕と一緒なら怖くないでしょ?」
「やめてよね。アンタと一緒じゃ貞操の危機だわ!」
真っ赤になって反論する澪は真琴の手を払い、そのまま部屋を出る。
「澪? どこへ行くの? 一人で大丈夫?」
「うるさい、子ども扱いするな。っていうかお風呂。一人でいいわ!」
先ほどまで怯えていたのも嘘のよう。澪はぷりぷり怒りながら部屋を出て行ってしまった。
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一人応接間に残された真琴は携帯を開き、久弥が描いたとされる絵を見ていた。
歪なシンメトリーの絵は左右から光源が当たっているかのようで、中心へ向って影が伸びている。
松林を見下ろすところを考えると、平地からではないのが分かる。
描いた本人はここに入院していたというのだから、おそらく二階からの景色だろう。
問題は海が描かれていない点。というより、無理矢理切り取られている印象もある。
――右、まあ左かもしれないけど見ればすぐに海があるのにどうしてだろ? 写生ってわけじゃないのかな? でも入院患者が描く不可思議な絵をもらって嬉しいものかな? 何か理由があるのかもしれないけど……。
絵の謎を解くというにはまだ情報が少ない。そもそも久弥がどういう意図で描いたことから調べる必要があるが、当人は既に二階で高いびき。かといって乗り気ではない和弥が答えるとも思えず、弥彦なら大切な情報を漏らしたりしないだろう。
――しょうがない。明日にするか……。
携帯をしまい腰をゆっくりと上げる。すると扉のほうでノックの音が……、
「は、はい? 開いてますよ?」
先ほど亮治に聞かされた言葉を思い出す。
『このペンション、夜になると無念のまま殺された人たちの声が病室に響くそうです……』
非科学的なことは信じないというスタンスの真琴だが、信じることと怖れることは背反せずに存在するらしく、若干腰が退けていた。
「……あ、あのね、真琴。別に怖いとかじゃなくて……」
ぎぃと開いたドアの向こうには、バスタオルを身体に巻いただけの澪がいた。