僕とあたしの海辺の事件慕 第一話 「思い出のペンションは元病院」-14
「よく知っていますね。当時は治る治らないは別として、系譜に対する病気という噂もあり、ここへ隔離したそうです」
「系譜?」
「多分だけど、なりやすい人達っていうふうなレッテルを貼ったんじゃないかな?
ほら、村八分みたいなさ」
「ハンセン病患者であることを隠すためにここへ閉じ込め、時期が来たら近くの崖から……」
「やめて〜……」
すっかり怯えてしまった澪は仕分けも出来ずに耳を塞ぐ。
「そのせいかこのペンション、夜になると無念のまま殺された人たちの声が病室に響くそうです……」
「ひぃ……」
それでも聞こえているらしく小さく悲鳴をひねり出す。
「もう、そこら辺にしてくださいよ。澪、大丈夫だよ。僕がいるからさ……」
「何よ、アンタがいたからってどうだって言うのよ。あんたなんか全然頼りにならないし……」
今にも泣き出しそうになる澪を抱え、真琴は部屋をあとにする。亮治はその様子にもスマイルを崩さなかった。
◆◇――◇◆
執務室を出るころには食堂の明かりは消えており、ロビーに常夜灯の灯りが見える。
時計を見るとまだ八時半を過ぎたところ。昼間遊び疲れたとはいえ今のまま寝かしつけるのも不可能と、灯りのもれる応接間へと向う。
「あら、澪ちゃん、真琴君、仲がいいわね。嫉妬しちゃうわ……」
部屋には頬を良い色に染めた理恵が居り、風呂上りなのかタオルで頭を巻いていた。
「のん気な話じゃないですよ。理恵さん、このペンション、夜になるとお化けの声がするって……」
「ああ、あれね……ふふ、今にしても腹が立つわ。まったく……」
苦々しげに呟く理恵は目を細め、「ちっ」と舌打ちする。
そういえば理恵はこのペンションに対し、何かよくない思い出があるようだが……?
「そうねえ、もしかしたら澪ちゃんの部屋なんか危ないかも、若い子が好きだから……」
と思っていたら今度は楽しそうな含み笑いを浮かべて言う。
「若くてって……、あたしも理恵さんもそう変わらないじゃないですか……」
「一般論よ。それじゃね、あたしはもう寝るわ」
後手を振る理恵は酔いもあってか上機嫌で去っていく。
「真琴……」
それとは対照的に澪は真っ青な顔になっていた。
「あたし、今日は眠らない。んーん、明日も明後日も……」
「無理だよ澪。っていうか、そんなこと無いし平気だよ。理恵さんは人をからかって遊ぶのが好きなだけだし……」
「じゃあ亮治さんは? あの人も?」
「それは……でも、死んだ人が来ると思う?」
「だって……、あ、そうか、多分そういうお化けのせいでここは赤字なのよ。だってそうじゃない? そんなところに泊まりたい人なんていないわよ」
いくつか論理の飛躍があるものの、大筋では同意できないことも無い意見。とはいえ、恐怖にまつわる感情は理詰めで諭せることでもなく、もし本当に彼女が寝ずの番をしていたら大変と、真琴は悩んでしまう。