僕とあたしの海辺の事件慕 第一話 「思い出のペンションは元病院」-13
**
ノンアルコールを言い渡された澪は一人つまらなそうに食堂を後にした。
元病院という薄気味悪いペンションで宝探しに興じることなどできず、かといって一人病室に戻る気にもなれなかった。
ひとまず灯りのある部屋へと向う。そこは亮治が仕事中寝泊りしている部屋らしく簡易ベッドと洋服ダンス、書類や宿泊客名簿、金庫などがおいてあった。
しかし、今時間帯、亮治はまだ仕事らしく、代わりに弥彦と真琴の姿があり、他人の部屋というのに遠慮もなしに書類を見つめていた。
「こっちも大変そうね……ここにありそうなの?」
さりとて興味のあることでもないが、それぐらいしか話もないと水を向ける。
「多分ないと思う。けど、今ぐらいしか探せそうに無いしね」
弥彦は書類の束、アナログなノートとにらめっこをしており、首をかしげたあと、テーブルに置く。
「手がかりとかあるの?」
何の気なしにノートを開いてみるとそれは帳簿らしく、赤い文字がいくつかある。
簿記を知らない澪でもそれが意味することは理解でき、和弥の言っていた「赤字経営」という言葉を思い出していた。
「これはこれは、皆様おそろいで……」
やってきたのはこの部屋を預かる亮治本人。彼は散らかされた部屋に動じることなく、蝶ネクタイを解いたラフな格好でいた。
「おおすまん。亮治君。勝手に調べさせてもらっていて悪かったな。今移動するから……」
散らかすだけ散らかすも片付けるのは専門外らしく、弥彦はでかかった腹のわりに軽快なフットワークで部屋を出る。
「すみません。今片付けますから……」
逃げ遅れた真琴はしょうがなしに書類を番号日付ごとに分類始める。
「どうかお気になさらずに……といいたいところですが、さすがに一人では大変か……お願いしますね」
亮治はタブリエを無造作にクローゼットへ放り込むと、早速部屋の片づけを始めた。
**
書類の束を仕分けする澪と棚に収める真琴。亮治は本棚と帳簿を整理していた。
「そういえば亮治さん、ここって昔は病院だったみたいですけど……」
作業に飽きたらしく真琴が余計なことを言う。
「ええ……、知りたいですか?」
「はい」
真琴の即答にしばし上を見つめ、何かを考える様子の亮治。しばらくすると営業スマイルに戻り、静かに口を開く。
「実はここ、昔は療養所という名目ですが、ほんとうのところは隔離施設だったのです」
「隔離施設?」
「ええ、ハンセン病などがそうですね。今でこそ直る病気でも昔は不治の病。もしくは、忌避する対象でしたから……」
「真琴、ハンセン病って何?」
「ん〜と、顔とかの皮膚にできものみたいのができるっていうか、すごく人相に影響する病気で、場合によっては感染しちゃうこともあるみたいなんだ」
「え! それって大丈夫なの?」
「うん。感染っていう言葉がひとり歩きしちゃってるとこが問題でね、大げさになりすぎちゃうんだ」