僕とあたしの海辺の事件慕 プロローグ「夏の日の午後」-8
「うん。君がそういうのしづらいっていうの分かるよ? っていうか、今誘うのもちょっと頭わいてるかなって自分で思うし。でも、介護とかそういうの? する側まで潰れたら大変だし、その遠慮がかえって重荷になるコトもあると思うの」
「はい」
「もちろんこれは遊びたい側の憶測だよ。相手がどう思うかとかは人によって違うしね」
「ですよね。でも、やっぱりそういうの」
「ふう、なんで私の周りの子ってこういう考えすぎな子が多いのかな?」
誘うことを諦めたのか、理恵は頭の後ろで手を組んでそのままソファよりかかる。
悔しそうというよりは仕方なしという感じがあり、腐っている風ではなかった。
「真琴、帰るわよ。あら理恵さん、お久しぶりです」
「あら澪ちゃん。ごきげんよう。あそうだ、澪ちゃんはさ、泊まりで海に行きたくない? ウチのじいさんのペンションでさ、ちょっと部屋が余っててね……」
それでもなお食い下がろうとする理恵にバイタリティを感じてしまう。けれど後には梓の姿もあり、喪に服す雰囲気がある。
「そうなんですか? でもあたしは……」
「ふーん、楽しそうね。二人とも行ってきたら? 私は姉さんのこと一人にしておきたくないから行けないけど、その代わりにお土産お願いね?」
「え、いいの?」
意外な許しに真琴は驚きの声を上げる。もっとも梓に断りを入れる必要もないのだが、一方でネックだった気兼ねが取り除かれるのを感じてしまう。
「いい? これはハンディよ。まともにやったら澪に勝目なんてないもの」
「もう、梓ったら……でも、遠慮はしないわ。あとでハンカチ噛んでキーキー悔しがる梓お嬢様を見たいしね」
「ふふん、上流階級の私はそんなはしたないことしませんわ」
「絶対泣かしてやるもん」
「お取り込みのところ悪いけど、澪ちゃんは来てくれるのね? よかったわね、真琴君。彼女さんと海辺でデート……」
はっとする理恵は慌てて口を塞ぐが、取り消すには至らない。
「やめてくださいよ。あたしはこいつと付き合ってなんかいませんから!」
けれど取り消す言葉は澪の口から……。
「澪!?」
一方真琴は複雑怪奇な表情で口をあんぐりさせ、しばらく状況を飲み込めない。
「あら、私はてっきりみおちゃんと真琴君が付き合ってたのかと思ったけど、違うのね」
「はい。あくまでもあたし達はまだ幼馴染です。ただの」
「だって、真琴君。君がぼやぼやしてたからじゃない?」
「そうなの? そうだったんだ……」
理恵のたのしそうな声にも、真琴は反論する気力がなかった……。
続く