僕とあたしの海辺の事件慕 プロローグ「夏の日の午後」-7
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「私、真琴君のこと好き」
突然真面目な顔になった梓は澪をまっすぐに見つめて宣言する。
「ん、うん。そう」
急な告白にただ頷くだけの澪だが、どう対応してよいのか頭の中がこんがらかってしまう。
彼女が真琴を好きなことは既知であった。けれど、今更確認するほどのことでもなく、電話で事足りること。
「真琴に愛してもらったし」
「……うん」
その事実も然り。
「気付いてた?」
「なんとなく、そうかなって……だって真琴、上手だ……」
真琴は何も言わなかったけれど、肌を重ねた感覚でわかる。彼はどこかリラックスしており、対照的に自分はガチガチだった。
「なんだ、澪も……ふーん」
「それで? そのこと聞きたかったの?」
「んーん、あのね、私、まだ真琴君のこと諦めてないの」
「そう。それで」
「いい? きっとアンタから真琴君を奪うんだから」
――奪うって……、あ、でもあたし、まだ言われてないかも……。
挑むような梓に対し、澪は腕組みをしながらふふんと鼻を鳴らす。
「誤解しないでほしいわね、梓ちゃん」
「な、なによ急に……」
悠然たる彼女の態度にどこかひるんでしまう梓。
「あたしもまっだ真琴と付き合ってるわけじゃないわ。アイツ、あたしに告ってないし。だから、あたしと梓はライバルね。イーブンってところ?」
「ふーん、そう……なら、正々堂々……んーん、どんな手をつかってもいいわ。全力で真琴君を振り向かせてみせるんだから!」
「でもま、勝負が見えてるけどね。御愁傷様、梓お嬢様」
「なによ、絶対逆転するんだから。せいぜいそのオッパイみたいに薄い根拠の上で胡坐でもかいてれば?」
「なんですって! 人が気にしてること〜」
きっと目を吊り上げる二人だが、勝負の行方は真琴のみが知ることとなるわけで……。
◆◇――◇◆
「というわけで、暇なら一緒にペンションに来ない? なんていうの? 海に一人で行くとかイタイしさ、君でも一応男の子だし、格好はつくかなって思うんだけど」
「え、ううぇ? 僕? ペンション? なんで?」
どこかに理屈をおいてきたのか理恵は色々省いて誘ってくる。
「返事ははいでしょ? 他は必要ないの」
煮え切らない真琴の態度に彼女は目付きを険しくしてにらみつける。その脅しに負けてしまった結果が甘く後ろめたい思い出であり、今またそれを繰り返そうとしているのが情けない。
「いきません。僕は澪と一緒に……」
何処かへ行きたいのが本音だが、何故かここ最近澪は冷たく、誘いにも応じてくれない。
「一緒に? なにか予定があるの?」
それを見透かされているのか、勝ち誇った様子で詰め寄る理恵。
「えっと、これから……考えます」
「楽しいと思うけどな。そうだ、澪ちゃんも一緒に来ればいいじゃない。もともと家族三人で行くつもりだったし、数はあってるわ」
「澪も一緒なら……あ、でも、その……」
一瞬明るくなりかけた顔が棚にあった家族の写真を見て暗くなる。それに気付いた理恵も、少し声のトーンを落として柄にもなく慰めの言葉を探し出す。