僕とあたしの海辺の事件慕 プロローグ「夏の日の午後」-6
「これがどうしたのよ?」
「姉さんの写真」
「だから、どうしたのよ?」
「あたしと同い年のころ」
勝ち誇ったように言う梓にようやく合点が行く。つまり彼女は自分もあと三年もしないうちにああなるといいたいのだろう。
もしかしたら彼女はその写真を反論のために所持しているのかもしれない。
「なによ、椿さんは梓みたいにきつい目してないもん。二人は個性的な姉妹だと思うわ〜」
「くー、言ってくれるわね!」
「そっちこそ!」
「もう……澪は澪なんだから……」
「梓こそ……」
二人とも怒っていない。ただ少し笑っていただけ……。それがどこか澪の心に刺さっていた棘を抜いてくれたのかもしれない。
そう、彼女はああみえて優しい子だからと……。
◆◇――◇◆
「でね、私のおじいさんがペンション経営してるんだけど、そこを処分するとか言い出してさ」
運ばれてきたアイスティーを飲みながら「へー」と頷く真琴。正直なところ、理恵の話はほとんど右から左の状態だ。
「別になくてもいんだけど、でもそこを子供達に相続させるーって言い出してね、ウチの父さん公務員だしそういうの向いてないのよ。ご時勢っていうか、公務員ってそういうイメージあるしさ」
理恵は格好良い女性。スラリと長い足と締まりの良いお尻、手に余る程度で媚びた風のない胸からはキャリアウーマンというイメージがある。
ただ、性格はどちらかというと奔放で、好奇心が強く自ら危険に赴くタイプ。もっともそのおかげで助けられたこともあり、貴重な体験をさせてくれたのだ。
「楓を誘いにきたんだけど、アイツほら、……シスコンだし……」
あえてシスコンを小声にするところみると、楓のことはまだ梓には秘密なのかもしれない。それに心労になりかねない真実を無理に教えたところで、メリットは何もない。
「楓さんもいたんですか」
「ええ、椿さんのことが心配らしくって、暇さえあれば毎日でも顔だすんじゃない?
半分は繋がってるわけだし、それもわかるけどね……」
頬杖をついて寂しそうに「はぁ」とため息をつく。
「そういうところがアイツのいいとこなんだけど、やっぱり嫉妬しちゃうわ」
「意外です」
「そう? まあ君は楓のこと知らないしね。アイツは正義感が強いっていうかさ、どっちかって言うと同情しすぎなのかな?」
「いえ、理恵さんが嫉妬するなんて、そういう感じがしなかったから」
「あらあら、言うわね。んでも、やっぱり彼氏っていうの? まだ半分だけどさ、そういうのが妹とはいえ他の女に御執心だったら当然ね。君も澪ちゃんのことほっといたりしたら大変よ?」
「あ、まぁ、そうですか……」
――澪と僕は大丈夫。っていうか、結ばれたし、絶対に……!
目の前で苦々しげに彼氏未満の誰かを思う理恵を前に、ひとつでも勝てる部分があるとまことは誇らしく思えた。