僕とあたしの海辺の事件慕 プロローグ「夏の日の午後」-5
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梓に案内され、二人は応接間に向う。
八畳程度の広さの部屋はフローリングの床で、柔らかそうなソファ、光沢の鈍いテーブルがあり、棚には今は亡き主の品がいくつか並んでいた。
「あ、お久しぶりです。香川様、真琴さん」
部屋を掃除していた家政婦の野中愛美がやってきた真琴を見て一瞬寂しそうな顔をし、悟られまいとお辞儀で誤魔化す。
「ども、お邪魔してます」
「愛美さん、お茶……んー、冷たい方がいいかな? アイスティーを三つお願いね」
「かしこまりました」
彼女は別荘にいたときのゴシックな洋装とは違い、ワイシャツとスラックスパンツ姿のカジュアルな格好だった。それでも豊満な胸元のはりは隠せず、つい横目で追いたくなる魅力があった。
「んーと、あのさ、真琴君には悪いんだけど、ちょっと澪を借りるね」
「え? あたしだけ?」
てっきり自分は真琴を呼ぶ餌だと思っていた澪は目を丸くして驚く。
「そうよ。っていうかアンタを呼んだんだけど?」
「まあそうだけど……、真琴、待っててね……」
「うん。わかった……」
――聞かれたくない話なの? いや、そんなの誰にでもあるよ。うん。
部屋に残された真琴は一人ソファに落ち着き、窓の外を眺める。
ガレージ付近には青い車があり、それは例の別荘で見たことのある車種である。
――そういえば楓さん……。
「失礼するわ……、あら真琴君、君もいたの?」
「あ、理恵さん……こんにちは」
ノックもなくいきなり扉が開くと久賀理恵がやってくる。
別荘での騒動では自らを弁護士と偽っていたお騒がせな人。そして真琴に性の手ほどきをした悪い女性。彼女には何故だか頭が上がりそうになかった……。
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澪が案内されたのは梓の部屋。
普通の子供部屋と比べれば確かに広いが大体六畳程度で、やや大きめのベッドとタンス、収納がある分だけ狭く感じる。特に何に使うのかわからない幼子大の大きさのクマのヌイグルミが部屋の中央に鎮座しているせいで妙な気持ちになる。
それでもレースのカーテンには花柄が散りばめられていたり、空調設備が完備だったりと羨ましい面が多い。
「えっと、あたしに用事ってなに?」
「なにその服。色っぽいつもりかしら?」
「へ?」
「肌を露出させて真琴君を誘惑するの? 無理無理、澪のつるぺた体型じゃ服が可哀想よ」
一瞬梓が何を言っているのかわからなかったが、理解が追いつくと同時に発すべきフレーズも自然と選択できる。
「なによ、これでもAからCになったんだからね? アンタと違って成長してます!」
膨らみの目立ち始めた胸を強調する澪に、一枚の写真が突きつけられる。
そこに写っていたのはサラサラの黒髪の女子。美人の部類に入るがお世辞にもスタイルが良いといえない。