……タイッ!? 最終話「告白しタイッ!?」-29
*―*
境内までもう十数歩。赤い鳥居はいくつものカップルの刻印で塗装が剥がれるぐらい。
周りを見ると「いたずら書き禁止」と書かれたプラカードがあるが、無残にも野ざらしのまま倒れている。
「ね、私たちも書こっか?」
「何を?」
「だからさ、これ……」
里美は親指と人差し指を開き、出来損ないのCを作る。紀夫もつられてそれを作
る。
「これがどうかしたの?」
「だからあ……」
不意に里美の右手のCが紀夫の左手のCにくっつき……。
「あ、え? だって」
「いいじゃん。お祭りなんだしこれぐらい」
二人の間にあるハートのマークは小さくて歪で震えて、それでも形を維持しようといじらしくこわばる。
「バチがあたるよ」
「それぐらい平気だもん」
周囲を見ればそれらしきカップルたちが同じことをしていたり……。
その雰囲気に負けたといえば言い訳だが、祭りの開放感がそれを誘発する。
「そう、そうだね。うん。少しぐらい……」
彼女の提案に浮かれて乗り出す紀夫と、その後ろで「もうあたってるし。バチ」と
つぶやく里美。数歩、遅れて彼の足取りに着いていった。
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ポケットに入れたままのサインペン。油性ならきっと雨でも消えない。
ひときわ目立つように、いや、それとも誰も書いていないところ。もしくは消えにくいところ、どこに傘を描こうか迷う二人。
「決めた、ここ!」
里美がさしたのは神社にある手水場の屋根。ここなら雨も当たらず、他の誰に邪魔をされることもないだろう。
問題は背丈と倫理観。
片方はお祭り気分でかなぐり捨てるとして、背丈はどうにもならない。
「紀夫、踏み台になって」
「はいはい、わかりましたよ」
手水場手前で四つんばいになる紀夫とその前で履物を脱ぐ里美。さすがに背中に土足をされるのは勘弁してもらいたかった彼はほっとしつつ、彼女の体重に耐える。
「ん、んぅ、もうちょっと高くできない?」
「無理、これ以上は無理」
二人の罰当たりな恋の共同作業に徐々に子供たちが近づいてくる。
「んーと、えと、よいしょっと、うん、これで、でけ……たっと!」
背中で足踏みすること数十歩、ようやく完成したらしい里美はぴょんと飛び跳ねる。
「里美さん、もっとソフトに喜んでよ」
「あはは、ごめんごめん」
「こらっ!!」
「わっ」
「きゃっ」
境内に響く怒声に紀夫たち含め、いくつかのカップルが驚いたように声の方角を見る。
そこには相模原神社の神主らしき人が袴姿で仁王立ち。手には箒を携え、今にも切りかかってきそうな迫力がある。
「お前たち、そこで何をしている!」
「やば、にげよ!」
「うん」
つかつかと歩み寄ってくる神主を見て里美は彼の背中から居り、履物を手に走り出す。紀夫もそれに従い一目散に逃げ出した。