……タイッ!? 最終話「告白しタイッ!?」-11
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「聞いてよノリチン、酷いんだよ。あやっちあたしのたこ焼きひとつ食べちゃったの」
「ごめん、だって理恵があんまりおいしそうにデコレートしてるからさ」
悪びれなく言い放つ綾の唇にはたしかに青海苔がついており、美奈子が拭くようにとハンカチを差し出していた。
「ん〜、タイムは綾さんの勝利だけど、見た目がね」
綾の運んできたものは鰹節が申し訳程度にかかっているだけで青海苔もなくマヨネーズもなく、さらにはソースも忘れているという結果。
「え〜、そんな〜」
「対して理恵さんのは見た目がすばらしいけど、ちょっぴりさめてるかも」
マヨネーズとソースできれいに格子を描いて鰹節と青海苔が一つ一つ丁寧にかかっている。さらに紅しょうがも添えてあり、申し分ない。
「ふたしたらマヨネーズが崩れるんだもん」
「そして美奈子のは……、なんとも形容しがたい。どうしてこうなったの?」
美奈子の運んできたたこ焼きはどちらかというとお好み焼きに近い形になっており、たこの足がはみ出ていた。
「私、こういうの苦手なの。ていうか、食べれば一緒じゃない」
「だめだめ。美奈子は大切な人にたいしてもそんなこと言うの?」
ようやく石段を登ってきた久恵と肩を貸す紀夫。まだ捻挫の尾を引きずっているらしく、なれない履物と恥じらいを装う彼女はダントツのびりだった。
「ちょっとノリチン、なんでキャプテンだけ?」
「先輩は足怪我してるんだからこういうことさせちゃダメですよ」
「う〜」
まったくの正論に言い返せない理恵だが、不満は別腹にたまっていく様子。
「ふむふむ、この対決、久恵の勝ちね」
「えー、なんで!」
「納得いかないわ」
「フェアじゃないぞ!」
高らかと宣言する紅葉に三人はブーイングの嵐。それにひるむ様子なくうんうんと頷き三人を制す紅葉は諭すように落ち着いて話し始める。
「まぁまぁ聞きなさい。お三方。いいですか? 彼女がこのたびのたこ焼き運びで気にしたのはなんでしょう? それは早く届けるという気持ちと届ける物への愛情。怪
我をおして、それでいて見た目も上出来。食べる人、さらには作ってくれた人への感謝の念すら感じられる。それらを総合すれば彼女が一番ではないでしょうか? 私はこれ以上美しいたこ焼きを見たことが無い」
胡散臭い弁舌をとくとくと語る紅葉だが、その実は温かくて見た目の良いたこ焼きが食べられたという満足感からだろう。
「というわけで、第二種目は射的! 今度は急がなくていいよ。しっかり狙ってきてね」
「くぅ、なんだか変だけど、勝負よ綾」
「ええ、負けませんよ先輩!」
紀夫そっちのけで勝負にいそしむ二人は浴衣を振り乱しながら駆け出していく。
「理恵、ここにいてもいい?」
ヨーヨーの敷き詰まったプールの水をばしゃばしゃともてあそびながらさびしそうにつぶやく理恵。
「ほらほら理恵さんも一緒にいこ」
「うん」
久恵に手を取られてしぶしぶ立ち上がる理恵に紀夫は申し訳ない気持ちを持ってしまう。
「……先輩、別にもういいんじゃないんですか?」
「ん〜もうすこし遊びたいかな。だってせっかくのお祭りなんだし」
ヨーヨー釣りというよりはむしろ女子部員釣りといった彼女の腹黒さに、紀夫はただ苦笑いをするしかなかった。