……タイッ!? 最終話「告白しタイッ!?」-10
「へー、王者ねえ。相模原女子陸上部一は別に綾に決まってるわけじゃないんだけど? 教えてあげようかしら!」
ヨーヨーをバシバシと叩きながらやってくるのは中学生に見まごうばかりの背丈の先輩、美奈子。彼女は白色の生地に色とりどりの朝顔がちりばめられた浴衣でいた。
「私も参加しようかな。伝統のあれもあるし、ついでにね」
その隣ではひょっとこのお面を斜めに頭にかけた久恵がいる。彼女はその性格なのか、紺色の地味な柄の浴衣に身を包んでいたが、よくよくみると格子模様に刺繍がしてあったりと妙に手の込んだものだった。
「ふむふむ。挑戦者は以上ですか、以上ですね。それでは始めたいと思います。相模原女子陸上部伝統の一戦。第十二回、夏の夜に私は舞う。たとえ一夜の夢幻であっても! 行くわ、きっと、境内のその先まで……」
妙にテンションの高い紅葉に頷いているのは久恵と美奈子で、理恵と綾はすっかり蚊帳の外。きょとんとしている紀夫に久恵が申し訳なさそうに「ようするに男がいない子がはしゃぐための口実なのよ」と教えてくれる。
「えと、これって来年もしないといけないのかな?」
「かもね。だって十二回とか言ってるし」
「境内の先なんていったら落っこちちゃうよ」
「はいそこ黙る! それでは第一種目は伝統のたこ焼き対決! さあ、石段駆け下りてここまで持ってくる! 形、温度、青海苔、マヨネーズ、各種採点基準があるからね!」
「な、今きたばっかなのに」
「理恵やだよ〜、疲れるもん」
口々に文句を言う一年組み。それに比べて二年ぐみは余裕の表情。彼女たちも石段を上がってきたばかりだというのにその差は何なのか?
「なら脱落ね。紀夫君は私のものかしら〜」
嘯く美奈子に立ち上がる綾。理恵もしぶしぶ立ち上がるとわれ関せずの紀夫をきっとにらむ。
「う〜、ノリチンうらむんだからね」
「何で俺?」
理恵の恨みがましい視線を受けながらも、今の紀夫は風船を膨らませるほか無かった。
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「なんですか? アレ? 十二回とか適当なこと言って」
「あら、十二回目なのは本当よ。はい、お釣りね。落とさないでね〜」
紅葉は飄々とした様子で受付をこなし、空いた手にヨーヨーを遊ばせている。
「昔、っていうか、十二年前か。ほら、女子高だったじゃない? だから出会いが無いとかで部員が腐っててさ。それで始まったのよ」
「出会い関係ないじゃないですか」
「直接はね。でもそういうの無いとつまらないじゃない? 息抜きみたいなものよ」
目の前では釣り金で小さな子がヨーヨー割って泣き出してしまう。
「ほらほら、大丈夫。おねーちゃんがいいのあげるからね〜」
小さな子相手には妙に良いお姉さんを演じる紅葉に感心しながら紀夫も手を動かす。
「じゃあ他の部員は?」
「他の子はみんな予定があるんじゃない?」
「じゃあ今日集まったのは予定が無いってこと?」
「違うでしょ? みんな君が目当てなのよ」
「そうでしたっけ? そうなのかな」
「はい、今度は割らないように気をつけてね」
黒にカラフルな線の入ったヨーヨーを受け取った子は紅葉に手をふって去っていく。
「お、うわさをすれば戻ってきたよ。うん、さすが一年のエース、綾ちゃんが一着ね」
黄色い浴衣の前を恥じらいもなく振り乱す彼女は紀夫云々よりもその背後に忍び寄る二年の実力者にむきになっているからだろうか?
その後ろでは理恵がか細い声で「あたしのたこやき〜」とこぼすのが聞こえる。