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【推理 推理小説】

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3rd_Story〜絵画と2つの裏向く名前〜-1

0.Heads

 とても寒い冬だった。
 その女性はホットコーヒーに口を付けると、改めて目の前のパソコンに向かった。ディスプレイには警視庁のホームページが映っている。ポインタをメール投稿フォームに動かし、クリック。メール画面が開く。キーボードに指を添え、キーをタイプしていく。白い、無機質の様な指が、ディスプレイに文字列を作り出す。ある程度の文章を書き終えると、彼女は手をキーボードから離し、またポインタを動かして、送信ボタンをクリックした。
 先程、この狭く区切られた部屋に入ってから、まだ10分も経っていない。それでも彼女は息苦しさを感じていた。どうしてこんな所で寛ぐ事が出来るのだろうか。しかしこういう、ネットカフェと呼ばれる店が繁盛している事は否めない事実であった。きっと、人々は周りを何か、それも人以外に囲まれている環境に安心しているに違いない。ここで暮らしている人間もいるそうだ。
 いずれにせよ、あと数回はこの狭く息苦しい空間に来なければならない。しかし、それは自分で決めた事。彼女はそう思い直すと、季節から切り取られたこの店を後にした。

 それと同じ頃、警察庁にいた1人の刑事が不審なメールを発見した。件名には予告状、と記載されていた。発信者のアドレスは、数字とアルファベットの乱雑な羅列から、個人のものでは無い可能性が高い事が分かる。
 兎に角、その刑事はメールを開く事にした。
「なんだ? これ……」
 中身は確かに紛れもなく予告状だった。内容を要約すれば、ある美術館に絵画を盗みに行く、というもの。所詮、悪戯だろうと、誰もがする合理的判断を彼は下した。上司に報告される事もなく、そのメールは削除された。この時、彼が少しでもメールを不審に思っていれば、せめて誰かに報告でもしていれば事態は変わっていたかもしれない。
 しかし、それは無かった。そして、予告状通りに、絵画は盗まれる事となる。これが世に言う、『連続絵画盗難事件』の始まりであった。
 始まり、と言うからには勿論、盗難は1度だけでは無かった。この半年後、再び警視庁に予告状が届き、再び絵画は盗まれた。2度も続いたこの事件に対し警視庁は、『連続絵画盗難事件捜査本部』を設立すると共に、全国の警察署に捜査支部を設立した。
 この事件が警察によって発表されると、まるで伝染病の如く、瞬く間に世間に広まった。
 しかしそれから3年間、警察を嘲笑うかのように、絵画は半年毎にしっかりと盗まれていった。

 だが、その後は何も無かったかの様に盗難は無くなった。理由は分からなかった。ただ唐突と予告状が届かなくなり、絵画が盗まれる事はなくなった。そして世間は、この事件を忘れていった。テレビ等の報道が徐々に少なくなり、殆どの捜査支部は解体され、人々の記憶からも消えていった。

 例えそれでも。
 犯人は英雄となった。
 犯人は救世主となった。
 この変哲の無い、つまらない世界に生きる誰かにとって。

 そして事件は、何も変わらず何も動かず、迷宮入りの道を歩むこととなる。


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