3rd_Story〜絵画と2つの裏向く名前〜-7
5.Tale
その翌日。学校と呼ばれる施設に通う、全ての学生に平等に休みが与えられる日であり、日本で言う、日曜日である。里紅の通う高校も、例に漏れず休みであった。
里紅は、昨日起きた絵画焼失事件の事件現場にいた。今はもう、警察も居なくなっており、出入り口には『立ち入り禁止』と書かれた黄色いテープが張ってあるだけだった。そのテープを潜り、中に入ろうとした時、携帯電話に屡兎から着信があった。
「はい、申す申す」
「拙者、名を屡兎と言ふ者だが」
「何用でござるか?」
「昨日、ってそれ続くの?」
「いや、もういいっす」
ごめんなさい、と頭を下げた。
「そう。んで昨日頼まれたやつ、調べてきたよ」
「あ、どうでした?」
「洞麻真綾歌<うろま まやか>。6年前に死んでる」
屡兎はその言葉を発した。
「……なるほど。ありがとうございました」
「そんなに重要なのか? これ」
「いえ、念の為です」
もう1度礼を言って、里紅は電話を切った。黄色いテープを潜り、今度こそ中へと入る。
太陽がまだ沈んでいない時間帯なので、当然ながら電気は点いていなかった。それでも、心なしか仄暗さを感じた。僅かに抱いている不安を自覚する。そのまま、通路に沿って歩いて行くと、今は無き絵画が展示されていた、広間に辿り着く。
そこには、既に先客が居た。里紅はその名を呼ぶ。
「こんにちは、赤屋さん」
「こんにちは」
先客――赤屋護が挨拶を返す。
「どうしてこんな所に?」
「それはこっちの質問ですよ、えーと」
「朝月と言います。朝月里紅」
未だ名乗っていない事に気づき、自らの名を口にする。
「そう、朝月君。何故君は此処に?」
「昨日の事件の犯人があなたである為の確証を得に来た。それでは不十分ですか?」
赤屋の目を見つめ、糾弾するかの様に話す。それに対し、赤屋はただ微笑みを浮かべている。
「そうですか。何故私が犯人だと?」
里紅が、一呼吸置いてから話し出す。
「まず、今回の事件でおかしいと感じた点があります。それは、何故絵画だけを燃やしたのかという事。もし、美術館や展示場を燃やす事が目的ならば、その建物ごと燃やしてしまえば良い。なのに犯人は、絵画だけを燃やした。なぜか。それは、犯人の目的が絵画を燃やす事にあったからです。ここまで良いですか?」
里紅の問いかけに、赤屋が頷く。
「では次に、その犯人についてですが、美術館の他の絵画が燃えてなかった点や、展示場の監視カメラの映像に異変が無かった点から、絵画を直接展示場に運んだ人物、つまり、あなた方学芸員の中にいると考えました」
里紅の考えをあざ笑うかのように、赤屋は笑みを浮かべ、質問をした。
「もしかしたら、絵画を運んだのは、別の人かもしれませんよ」
「例えそうだとしても、それを命令した人は展示場に居たはずです」
「何故?」と赤屋。
「犯人は、絵画が燃える様を見たかったんだと思います。それも、展示されている絵画で。そうじゃなければ、美術館で絵画をまとめて燃やせば良いだけの事。だから、犯人は展示場にいた、あなたか茶山さんのどちらかだと思いました」
では、と今度は赤屋が切り出す。
「先ほどから絵画を燃やすと言っていますが、勝手に絵画が燃え出す事なんてありえないでしょう」
「ええ、だから犯人は絵画が勝手に燃え出す様な仕掛けをしたんです」
「仕掛け? ですが、そんなことをしていたら、他の学芸員に怪しまれるのでは?」
「確実に怪しまれるでしょうね。でも、学芸員全員がその仕掛けをしていれば、怪しまれる事はありません」
里紅の言葉に、赤屋は眉をひそめた。そして、再び口元に笑みを零す。