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【推理 推理小説】

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3rd_Story〜絵画と2つの裏向く名前〜-2

1.Days

 鳴り響くチャイムが、学生を苦痛から解放への道へと誘った。俗に言う、昼休みの時間である。
「里紅……起きろって、里紅!」
 その朝月里紅<あさつき りく>はというと、教師の発する重低音を子守唄にし、いつもの如く惰眠を貪っていた。友人の坂本白<さかもと あきら>が声を掛けるも、唸り声を上げるだけで殆ど反応しない。高校2年の10月という、これからの進路を考える上で大事な時期だというのに、そんなことはお構いなしである。
「里紅! もう昼だよ!」
「ぅえ?」
 やっと起きた里紅の顔には、制服の跡がくっきりと残っていた。寝ぼけ眼をゴシゴシとこすり、口を大きく開けて欠伸をした。
「昼?」
「昼」
 もう一度空気を余分に取り込むと、里紅は辺りを見回した。確かに大半の生徒が既に昼食の用意をしている。里紅もそれに倣い弁当を広げた。
「あれ? 白は食べないの?」
 前の席に座った白に尋ねた。
「まぁ、ちょっとね」
 曖昧な答に疑問符を頭に浮かべたが、気にせず弁当の中身を箸でつっつく。
 2個目の玉子焼きに箸を付けようとした矢先に、右隣りの机がドンと鈍い音を鳴らした。里紅がそろそろとそちらを見やると、いっぱいに膨らんだコンビニ袋を机に置き、こちらを睨み付ける稲荷黄依<とうか きい>と目が合った。
「え、何?」
 その眼光に少しばかり怯えながら聞いた里紅に、黄依はもう1つ眼光を返して椅子に座る。
「……あ、そう言えば絵里ちゃんはもう大丈夫なの?」
 よく分からない圧力が掛かってくる黄依の方を見ない様にしながら、ふと思い出した様に白に聞いた。
「うん。あ、ほら」
 噂をすれば何とやら。白を呼ぶ声に振り返ると、教室のドアの辺りに、満面の笑みで優雅に手を振る坂本絵里<さかもと えり>の姿があった。艶やかな黒髪が揺れている。もう片方の手には弁当箱が握られていた。
「じゃ、里紅。稲荷さん」
 自分の弁当を持って立ち去ろうとした白だったが、不意に立ち止まり振り返った。
「そう言えば、里紅。八月一日って最近どうしてるの?」
「さぁ。分かんない」
 白の唐突な質問に里紅は直ぐ様答えた。少し言い方が冷たくなってしまったのは、動揺の表れだろうか。そっか、と白は返し、特に気にした様子も無く絵里の下へと歩いていった。一方の黄依は、未だ憤怒のオーラを放ちながらコンビニ製のおにぎりを食べ続けている。その態度に里紅は、「何だよ。言いたい事があるんなら言えよ! お前はのっぽさんかよ! んじゃ俺はゴン太君かよ! ……って、人間ですらねえじゃん! ったくよー!」などとは勿論言う事は出来ずに、ただただ冷や汗が流れるのを認識しながら、何かが通り過ぎるのをじっと堪えていた。
 しかし、いつまでも堪えているわけにもいかない。男には、やらなくてはならない時があるのだ。
「あ、そうだ」
 勇気を振り絞り、里紅が呟いた。
「碧さんがさ、今度の土曜日に絵画展に行こうって…」
「碧さんが?」
「そ、碧さんが」
 自分の提案なら未だしも、碧さんの提案を黄依が断るわけは無いだろうと、里紅は高を括っていた。碧さんとは、里紅達の行き付けのカフェ『MILD』のマスターであり、黄依が心を許す数少ない1人である神木碧<かみき みどり>の事である。黄依は少しの間唸っていた、が。
「ヤダ」
 あっさりと言い放たれたその言葉に、里紅は振り絞った勇気が吸われていくのを感じる。
「ってのは冗談。行くよ、勿論」
「……」
「里紅? どうしたの?」
「うぇ? ……あ、いや、何でもない」
 滅多に見れない黄依の笑顔に見蕩れていた、などと言えるわけが無い。いつも笑っていれば友達も増えそうなのに。
「何考えてた?」
 黄依の鋭い目付きが里紅を襲う!
「な、何も考えてない!」
「本当に?」
「ほんとほんと。それで場所なんだけど――」
 何とか話を逸らし、黄依の攻撃から逃れた里紅だったが、その後、話を逸らされた事に気づいた黄依から、本の角攻撃を喰らう事になるのであった。


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