【気まぐれ彼女と気弱な僕と】-1
『それ どうすんの?』
比奈子だった。
天を仰ぎ震える両手で喉に突き付けた包丁の向こう側で こんな状況にも関わらず 淡々としていた
『訳有りなら聞こうか?』
しゃがみこんだ比奈子のパンツが見える。思春期の高校生とかでもないのに妙に欲情する
『こんな風に痛い思いして死んでも誰も解っちゃくれないよ』
ちょうど上ってきた朝日が 彼女を照らし出す
女神様みたいだった
俺は 持っていた包丁を置いた。オーダーメイドだった。昨日砥石で磨き上げた刃先にも光がギラギラと反射する
比奈子はそれを一瞥すると近寄って俺を抱きしめた。
顔が柔らかい感触に包まれる。比奈子の胸だった 思いきりうずめて匂いを嗅ぐ。何だか知らないがすごく落ち着いた
エリートコースで歩いてきた。だけど、疲れてしまった。人に期待されるのも、嫌われないように演じるのも
そんなことを手短に話した
『私の奴隷にならない?』
一通り話し終わった俺に比奈子が言う
『嫌な事全部忘れさせてあげる』
圧倒的な自信。操られたように頷く
『ぢゃぁさ。まずは目隠ししてみよっか』
比奈子はうっすら笑うと俺に目隠しをした。
『‥何をするの?』
『大丈夫よ。暗いの怖い?』
『‥へーき』
見えない視界の中比奈子の声がクリアーに聞こえる。頭を撫で、柔らかく聞かれ首を振った
『じゃあ次は服を脱いで。できる?』
俺は頷き感覚だけで服を脱いだ。
(感じるって、やらしー方かぁ。まぁ、いっか。好きに遊んで)
色白で筋肉のついてないひょろっとした俺の肉体が光の下に晒される
『よくできました、‥恥ずかしい?』
言うとおりにするだけで誉められるのは嬉しい。あまり、恥ずかしい。とは思わない。多分どっかネジが外れてるんだ。
『‥うん、ハズカシイ』
だけど頷く。人の言うとおりにするのは楽だ。自分で考えなくて済むから
『じゃあちょっとじっとしててね』
俺は全身の力を抜いた。人形みたい。だけどラク。