【気まぐれ彼女と気弱な僕と】-11
『‥うふぇ?』
比奈子の前だと、泣いてばかりの俺は素っ頓狂な声を出す。抱き寄せられたせいで涙でにじみつつある視界に彼女の姿は映らない
『あたしからならいんだけどね。』
後で、それが単に身長148cmで小柄な比奈子が20cm差の俺を見下ろす位置に立ちたい理由だと知り、地味にワケわからないとか思ってしまった。
外や人前で抱き合ったりいちゃつく趣味はない。
他の男がどうであるかは別にして俺は、2人きりの時、比奈子のEカップの胸に心おきなく顔を埋めて甘えられる絶好のチャンスなのだから異論を唱える気などさらさらない。
ただ、それを口にしたら変態みたいだからいつまでも言わないでいたりする。
柔らかい腕の中。暖かい体温と甘い匂い。宥めるように後頭部を撫でられて安心する
『‥悲しくなっちゃった?』
比奈子は自分で突っぱねた癖にひたすら優しい。
強がって『大丈夫』って言って振り払わなきゃいけないんだと思う
そうしなかったら俺は本当弱くて滅茶苦茶格好悪いから
『‥‥っ。全‥然!』
やっとの思いでそういって離れようとしたのに、俯いた俺のおでこに比奈子の柔らかい唇が寄せられたからできなかった。そのまままた抱き寄せられる
『‥っ、うっ』
もう、比奈子は何回俺の事を泣かせれば気が済むんだろう。
もう、泣きたくなんてないのに、なんでもいいから格好つけて少しでもいいところを見せたいのに。
腕を回してまた拒絶されるのが怖くて下に下ろしたまま、握りしめた掌に爪を立てる。ゆっくり空気を肺に入れると泣きそうな悲しみが少しずつ和らいでいった気がした
『また来るから』
って優しい声で言われる。泣いてる理由はそれじゃないのに、【また来る】って言葉に簡単に安堵してしまう。
多分それが今、一番欲しい言葉だったからかもしれない。
『‥わ、かった』
聞き分けのいいふりをしたい。少しでも余裕ぶりたい
真っ直ぐ比奈子を見て出来るだけ落ち着いた声で爽やかに笑い左手を振った。
『またね』
連絡先を聞いたり送ったりしたいが ストーカー呼ばわりして拒絶されたりはしたくない。
『是非』
比奈子は俺の口癖を真似て笑うと 扉の向こうに消えていった
1ヶ月あまり連絡がなかった比奈子から連絡が来たのは昨日の事だった。
メルマガに混じって送られてきた必要事項だけのメールだ
いつの間にアドレスを知ったんだろう‥とは思うが単純に嬉しい