ヒミツの伝説-5
第2章
翌日の昼休み、校舎の屋上で二人きりになった弘志と奈月は、宮内から渡されたマニュアルを開いた。膣拡張の手順が書いてあるので、事前に目を通しておくようにと、弘志が渡されたものだ。
今日の放課後から、いよいよ奈月の訓練が始まる。
『女性の膣はもともと出産のためにかなり伸びるように出来ているため、拡張する事により相当太い異物を挿入することが可能になる…』
もっともらしい説明と合わせて、大根やナス、男性の腕、ビール瓶、そしてバット…、と様々な異物を挿入されている女性器の写真が載っていた。
(やばい…かな…)
ちらっと盗み見た奈月の顔が真っ赤になり、みるみるうちに強張っていく。
「この、『注意』ってところを読んでおいた方がいいよね、きっと…」
弘志はそう言いながら、慌ててページをめくった。
『性体験の少ない女性は挿入に対し痛みや不安を覚えることが多い。張り型などを用い、膣口を充分に拡張してから行うことが必要…』
「やっぱり、痛いのかなぁ…」
不安そうに奈月が呟く。奈月にも見せておいた方が不安が減るだろうと思ったのだが、逆効果だったかもしれない。
(まずいな…、かえって怖がらせちゃったみたいだ…)
あせって次のページをめくろうとする弘志。しかし、その手をピシャッと押さえて、奈月の目が真剣にマニュアルを追っていく。
『異物挿入には、細菌感染や粘膜の損傷などの危険が伴う。またこれらの行為は肉体的・精神的負担が大きいので充分な配慮とケアが必要である…』
「やっぱりやめる?」
弘志が心配そうに尋ねる。しかし、奈月の返事は思いがけないほどきっぱりしたものだった。
「ううん、一度やるって決めたもの…」
(奈月ちゃんって、本当はスゴく強いのかも…)
認識を新たにした弘志は、少しでも奈月の不安を減らそうと、マニュアルを懸命に目で追った。
「ほら、これ見てよ。『ポルノ小説などで拡張の結果、二度と元に戻らないと描写されることがあるが、実際には数か月以上拡張行為を行なわずに普通の生活をしていれば、充分に元に戻る』って書いてあるよ。」
「ホント、そうね…」
奈月もそれは不安だったのだろう。弘志が示した文章を見て、少しホッとした様子で微笑んだ。
「ほらね、全然大丈夫さ…」
彼女の体を取り返しがつかない状態にしてしまうのではないかと密かに恐れていた弘志も、そうでないことを知ってニッコリ笑う。
よく見ると、文章はさらに続いている。次のページをめくった途端、二人の視線が凍りついた。
『ただし、括約筋を損傷した場合は別…』
その時チャイムが鳴り、弘志は急いでマニュアルを閉じて言った。
「…大丈夫、案ずるより産むが安しだよ…」
「うん…、そうね…」
奈月はそう答えると、引きつった笑みを浮かべた。
「弘志のやつ、どうしたんだ?」
「スゲぇ、気合が入ってるよな」
帰り支度をしながら、萬高野球部の部員たちは、そう言い合った。みんなが練習を終えた後も、弘志はグラウンドで一心不乱に素振りを続けているのだ。
「あいつも必死でがんばってるんだ。」
キャプテンの朱川が感動したように言った。2週間後の地区予選を勝ち上がっていけば、甲子園も夢ではなくなる。
「俺達も、練習、続けましょうか?」
2年生の一人が言うのに対して、朱川が首を横に振った。
「いや。監督から、練習後に弘志だけを対象にした特訓をするから、他の部員は帰るようにと言われてるんだ。」
「そうですか…」
2年生は、バネがいっぱいついた器具を体につけ、日本刀で素振りをする弘志の姿を思い浮かべた。他の部員たちもそれぞれに「特訓」の様子を想像していたが、いずれも実態とまったく掛け離れていることを知る由もなかった。