富子艶聞-3
「 ・・・ああ、やはり心に描いていた通りであった 」
正面から富子の顔を見つめる帝の口から漏れる嘆息。
今2人が向かい合って座っている部屋は、
富子の滞在の為にと宮廷が用意した部屋である。
御所の離れに位置しているとはいえ、部屋の中の襖はあの“源氏物語"の各場面を用いている。往時の平安貴族の絢爛な生活が華やかな色彩で描かれていた。
「そんなに見つめないでくださいませ。恥ずかしゅうございます・・・・」
そんな熱い視線を真っ直ぐ受け止める富子は 僅かに頬を赤らめ 俯くように下を向いた。
その白い肌、切れ長の黒い瞳、妖しいまでに赤い唇、頬に垂れ下がる艶やかな黒髪・・・・。
御所において多くの美女を見てきた帝ですら 感嘆させるくらい新鮮な艶かしさを滲み出せている将軍の正妻。
帝は思わず座を進め、
座ったままゆっくりと富子の膝に手を伸ばし そこに置かれていた彼女の右手をそっと握った。
柔らかい肌に包まれつつも、その奥には芯が通ったような その手を握りしめつつ
俯く富子の顔に自らのそれを近づけ、下から覗きこむ。
鼻を擽る薫りがより強くなる。
ここで富子も初めて視線を動かし、
見上げてくる帝の瞳を見返した。
御簾も介さず、ここまで接近することなど2人の関係においてはあり得ない光景であるとも言える。
「 義政殿とのことは聞いている。だが 気を落とさずに・・・この我に出来ることあれば何なりと力になろう。
そなたが望むならば、我が身をもって慰めることもいとわぬ・・・・」
「 嬉しい・・・・嬉しゅうございます、主上 」
帝の左手がそのまま富子の背中に回され、気づいた時には彼女の体は3歳年下の青年君主の胸の中で抱きすくめられる状態になる。
体勢は逆転し、
見下ろす帝と、見上げる富子という構図になっていた。