想-white&black-J-5
「何だよ、また見つかっちまったのか。いっつもいいとこで邪魔しに来るよな。俺のこと見張ってるとか?」
麻斗さんは突然現れた楓さんを目の当たりにしても、全く動じることなく笑みすら見せながら飄々と話している。
反対に私は驚きと衝撃が大きすぎて何も言葉が出ない。
「いい加減そいつから離れろ、麻斗。いつまでも目障りだ」
ぐっと抑えた冷静な物言いにも関わらず、低く唸るような声には明らかな怒りが見え隠れしているのが分かる。
麻斗さんがその言葉を聞いた瞬間、僅かに私を抱き締める力を強めたのを肌で感じた。
「離れる? そんな必要はないだろ。彼女がどうして俺の所にいるのか分かってんのかよ」
「何だと?」
楓さんは怪訝そうに目を眇めながら私達を見下ろす。
だが私はまともに顔を見ていられず、麻斗さんに隠れるようにしていたが突き刺す視線は身体中が感じ取っていた。
「分かんねえのも無理ねえよなあ。花音を玩具みたいに好きに弄んで傷つけて、逃げられてんじゃな」
突然麻斗さんの声が恐ろしく低くなった。
私からは彼の顔を見ることはできなかったが、きっと見たこともない表情をしているのだろう。
「どうせそそのかしたのは貴様だろう。こんな真似をするとは遊びがすぎるぞ」
あくまでも冷静さを崩さない楓さんに麻斗さんは、決して離すまいと見せつけるように背中から腕を回して抱き寄せた。
「麻斗さ……っ」
私はその時初めて楓さんと向き合う形になり、思わず見上げた視線の先には背筋が凍りそうなくらい無表情で冷たい表情がそこにあった。
怒りを露わにするよりよほど恐ろしく思えた。
「二度は言わん。早く花音を離せ。いくらお前でも容赦はしない」
地を這うように低く、静かに話す彼の声に身動きがとれなかった。
だがこんな状況でも私の胸は苦しいほどの楓さんへの想いが蘇ってくる。
忘れようと閉じ込め抑えつけるのに時間がかかっているのに、一瞬で溢れ出してしまいそうだった。
(ああ、やっぱり彼を忘れることなんてできないのかもしれない……)
側にいても離れても想いは募るばかりだった。
そんな中、背後で麻斗さんが微かに笑う気配がした。
「……珍しいじゃん。楓がそんな風に一人の女に執着するなんてさ」
沈黙の後、麻斗さんがそう口にする。
こんな状況の中でなぜ笑えるのか分からなかったが、僅かに彼の腕が緩んだのは分かった。
「お前には関係ないことだ。さっさと人のものを返せ」
「……。仕方ねえな。まあ居場所がバレた時点でもう無理だってことは分かってたけど。もう少しで誰にも知られない所につれていけた―――」
楓さんの腕が伸ばされ言いかけた麻斗さんの身体が急に離れたかった思うと、観覧車の外へと吹き飛んでいた。
それが麻斗さんが殴られたのだと理解できるまで間が空くほど一瞬のことだった。