「息子が下着泥棒?」-3
「オレは……女の人とは……よう口も利かれへんのや。
こんなんでは……一生結婚なんか……結婚どころ、女の人を抱くこともなしに、人生終わってしまうのとちゃうか思うてな……
夜も眠れんくらい心配なんや」
「せやったらフーゾクとか、ソープとかに行ったらええやんか?」
「オレやってそう思うて、挑戦したことはあるんやけどな……
店の前までは行っても、よう入れんのや」
「ずいぶん難儀な話やな。
それで下着泥棒かいな」
「女の人の下着に囲まれて……
センズリするんが、
いま一番の愉しみいうんか……
愉しみはそれしかないんや」
「何で、そないなことになってしもうたんやろな」
恵美子は両手で顔を覆うと、深いため息をつくのだった。
すると、正純が肩を震わせながら、嗚咽を洩らしはじめた。
しだいに、あたりに憚(はばか)ることのない、幼児のような泣きじゃくりになっていく。
そんな息子を見ながら、
あまりの不憫(ふびん)さに、
彼女の気持ちは絶望の淵に、
沈み込んでいくのだった。
そのうちに恵美子の心のなかに、ある思いが兆(きざ)していた。
その思いがどんどん膨らんで、大きくなっていく。
いま目の前で泣きじゃくっている息子を助けられるのは、母親である自分しかいない。
いま何とかしなくてはいけないと考えるようになっていたのだ。
そうしないと、正純は下着泥棒どころか、
さらに行為をエスカレートさせていき、
痴漢やレイプなどの犯罪を犯していくのではないかと心配された。
それで恵美子は息子に背を向けると、
着ているベージュ色の部屋着のワンピースのファスナーを下げて、
両肩から滑らすようにして脱ぎ下ろしていった。
その下には薄い水色のブラジャーと、
おそろいの色のショーツを着けているだけだ。
突然、目の前で母親が下着姿になっていき、正純は泣いていたのも忘れて
目を丸くするのだった。
「オカン……何をしようちゅうんじゃ?
気でもちごうたんか?」
「おかあちゃんは正気や。
あんたが不憫でならん。
もう、おかあちゃんも50歳やけど、
これでも女は女や……
あんたの好きにさせてあげよう思うてな」
「オカン、そりゃ近親相姦とちゃうか?
そんなん許されるわけないやろ」
「許すも許されんもないやろ。
こんなん世間では、ようけあることや。
これでおまえが警察に引っ張られる心配がなくなるんなら、お安いこっちゃ」
「けんどな……」
まだ、承服しかねているような正純であった。
こういうとき決断が鈍いのは男のほうだと決まっている。