「瓦礫のジェネレーション」-42
「葉子は、今のままでいいと思ってるわけじゃないだろう?」
「……どういうこと?」
まだ頭の芯がぼーっとしたままで、腰が甘くうずいている。葉子は市丸の言葉をどこか遠い話にように聞いていた。
「俺のために動いてくれないか?悪いようにはしない……」
うってかわって優しげに、市丸は葉子に語りかけた。手を葉子の太ももの間にすべりこませ、その奥の濡れそぼったところに指を這わせる。
(こいつらのせいで江口組の商売がやりにくくなってたんだっけな。こいつらを壊滅状態にすれば、江口組にもいい手みやげになるだろう)
葉子の呼吸が次第に荒くなり、切なげな声を漏らし始めた。
江口組は近隣県を縄張りとする新興暴力団である。その配下にある不良グループとともに最近S県周辺にも勢力を広げようとしているが、S県および周辺においては塩飽の力が強く手出しが出来ず手詰まり状態である。また美咲や陸が仕切っているグループが事実上県内をまとめているために、他県の勢力が入り込む隙もない。江口組は新興勢力であるだけに、資金的にはいささか苦しい状態にあった。
塩飽社長のもとに輿石岳人から連絡がいったのは、岳人が陸から話を聞いてから一週間後のことだった。
「おじさん、輿石岳人です。今日は市丸さんのことでお耳に入れておきたいことがあるんですが……」
「市丸?市丸がどうかしたのかい?」
「ちょっと小耳に挟んだ話なんですけど、市丸さん、江口組とつながっているようなんですよ」
「江口組だって?それは一体、どういうことなんだ?岳人くん」
「これは極秘で願いたいんですが、どうやらおじさんの会社を我が物にして、江口組の配下に治まろうとしているらしいんです」
「岳人くんが言うんだからいい加減な情報ではないのはわかるが……それにしても会社を?そんなバカな。どうやって……」
「美咲ちゃんですよ。美咲ちゃんに取り入って次期社長に治まろうとしているらしいです」
「次期社長だって?バカバカしい。しかし……美咲に、手を出したのか?市丸が……」
「それはわかりません。ただ、狙っているのは間違い無いことです」
「そうか……あの市丸が……。そういえば確かに昔、美咲の婿にどうか、とかいう話になったことはないでもないが……」
「他にも叩けばほこりが出そうではあります。ですけど僕の口からはこれ以上のことは言えません。父にもこの件に関してはまだ伝えていないのですが……」
「わざわざ知らせてくれてありがとう、岳人くん。その件についてはウチの方でも調べてみることにするよ。面倒な話にならなければいいんだがね。それはさておき、岳人くん、美咲をもらってくれる気は本当にないのかね?」
「おじさん、美咲ちゃんにはもういい相手がいますよ。彼女の人を見る目を信じてあげたらどうですか?」
(おかしい。美咲から何も連絡がないというのはどういうことだ?葉子からはしつこいくらいに電話があるというのに……。俺の計算が狂ったのか?おまけに、どうも社長の様子もヘンだ。まさか……バレたか?いや、そんな筈はあるまい)
市丸はこの数日、居心地の悪さを感じつづけていた。
美咲のマンションに何度か電話をし、留守電にこの前のことをほのめかす伝言を入れた。普通ならこれで、脅しに屈してか自ら望んでかはともかく、向こうから連絡が来る筈だった。そうすれば、前回のことをネタにまた強引にでも関係を結び、屈服させることができると計算していた。