「瓦礫のジェネレーション」-33
自分の部屋に戻ったかおりはしばらく泣きじゃくっていた。
(いいのよ、これで。これで元に戻れる。拓也さんとの仲まで元に戻るわけじゃないけど)
健志の存在が自分の中で日に日に大きくなっていることに、かおりは悩まされていた。甘い声、抱き締める腕の感触、柔らかい愛撫……思い出すたびに体が熱くなってしまうのだ。下校のときには無意識に校門の側に健志の車を捜していた。憎むべき相手の筈なのに……。
健志から初めてかかってきた夜中の電話で、健志の気持ちはわかっている。要するに彼は、自分をオモチャにして一人占めしていることを仲間に知られたくないのだろう。どうせすぐ捨てるつもりだから、余計なかかわりを持ちたくない、周りに知らせるほどもない、そう考えているのだ。ならばもういい。これ以上傷付きたくない。いずれ捨てられてしまうのならば、これ以上彼のことを忘れられなくなる前に終わらせなくてはいけない……かおりが悩んだ末に出した結論だった。
さんざんためらったのち、かおりの指は携帯のメモリーからKNを削除した。
その晩。
健志は美咲の部屋で酔っぱらっていた。
「まったく……ここはバーでもスナックでもないんだけどなぁ」
愚痴る美咲を陸がなだめている。健志のとなりには妙に上機嫌の葉子がいた。
「あれ?健志、なにかなぁこの包みは」
「ああ…それ。欲しかったらやるよ。どうせもう用なしだし」
「きゃ、可愛い指輪。でもいらなーい。どうせこんな小さいの小指にだって入らないしぃ」
葉子はそういいながら、指輪をつまんで弄んでいる。ふと裏側に目をとめ、そして一瞬考え込んだ。
「ねえ健志、今日は泊まってくでしょ?ひさしぶりに、さあ」
葉子の誘いに、健志は手を振って
「悪いな、葉子。俺いまそんな気分になれないんだよ。帰るわ」
と断わり、立ち上がろうとしてよろけ、また座り込んでしまった。
「帰るって、そんなに飲んでるのにどうすんのよ、車でしょ?いいじゃない、泊まってけば」
なおも絡む葉子に、陸が割って入る。
「俺飲んで無いし、送ってくよ」
「ええ?なんでよぉ。陸さん、ホント気がきかないんだから」
「葉子もあんまり飲むなよ。じゃあ美咲、悪いけどあと頼むわ」
ほとんどつぶれている健志を引っ立て、陸が部屋を出た。
「陸さん、すみません、手間かけちゃって」
「気にするなよ健志。……そうか、バージン殺しの健でも女に振られることがあるんだな」
「許してもらえるとか、好きになってもらえるとか、思ってたわけじゃないんですよ。だけど……もう会えないのか……こんなに早く会えなくなるなんて思ってなかったから……」
「ホントにすごい落ち込み様だな。俺の部屋でもう少し飲むか?」
「すみません、本当に……」
健志はそう言うと、すやすやと寝息をたてはじめた。
車が陸のマンションに着く。陸はなんとか健志をひっぱり起こして部屋まで運ぶと水を飲ませた。
「そうだ健志、葉子にはちゃんと話したのか?」
「あ、まだ……でももういいですよ。もうかおりとは会うこともないんだし……」
「そうか……でもいずれはちゃんとした方がいいぞ。今日の絡みかたもなんか普通じゃなかったし」
「まあ、そのうち機会みて話しますよ。なんつか俺今、人のことまで考えられる余裕なくて……」
「情けない奴だなあ。まあ仕方ないか。今日はつきあうよ」
陸がキッチンに立って水割りの用意をしてから戻ると、既に健志は眠っていた。