「僕らのゆくえ 8(千比絽)」-1
「時子?」
やっと辿り着いた、家はしかし、真っ暗だった。
ことりとも音がしない。
「…時子ちゃん?」
俺の声だけが、不安気に響く。
玄関に時子のスニーカーがあったので、帰っていることは確かだ。
自分の部屋にいるのだろうか。
俺は足早に2階へ駆け上がった。
ノックするのももどかしく、ドアを開ける。
ベッドには時子がいた。
ホッとしたのも束の間、駆け寄ると時子は赤い顔をして荒い息を繰り返している。
恐る恐る、額に触れると思いのほか、熱い。
―俺のせいだ。
病気の時子をひとりにして、俺は一体何をしていたのだろう。
自分のふがいなさを悔やむ。
階下に降りて、風邪薬と冷却シートを探す。
ついでに水を汲んで、時子の部屋に戻った。
上掛けを肩まで引き上げてやる。
薬を飲ませたかったが、時子はなかなか目覚めなかった。
そっと、小さくて熱い手を握る。
「…ごめん。ごめんな」
苦しかった。
今まで溜めていたこの想い全てを吐露してしまいたかった。
握りしめたこの手から、10分の1でもいいから伝われば良いのにと思った。