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「僕らのゆくえ」
【幼馴染 恋愛小説】

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「僕らのゆくえ 9(時子)」-1

誰かに呼ばれた気がして、私はうっすらと目を開けた。

右手が温かくて、ゆっくり顔を向けると、千比絽がいた。

私の右手を両手で祈るように握り、俯いている。


まだ夢を見ているのだろうか―。

「…千比絽?」

掠れた声で呟くと、千比絽が顔を上げた。

私をみて、ホッと安堵の表情をみせる。


「…薬、飲んで」


千比絽はそう言うと、私の背中を支えてから、僅かに起こし、箱から出した錠剤を器用に口許に運ぶ。

微かに千比絽の指先が唇に触れるのを感じた。

水も千比絽がコップを持って飲ませてくれた。
こくりと喉が動いて、錠剤が流れ落ちるのを感じる。

からからの喉に冷たい水は美味しかった。


千比絽は、再び私をゆっくり横たえて、上掛けをそっとかけてくれる。

その一連の動作が優しくて、私は熱に浮かされた頭でぼんやりと昔に戻ったような気がしていた。


枕元にいる千比絽は、世界にひとりでいるようで。

途方もなく不安で、心許ない表情をしているから、夢現に私は、手を伸ばして千比絽の頭をくしゃくしゃと撫でた。


「…どうしたの?」


尋ねても、千比絽は俯いて首を振るばかりだ。




「…千比絽。千比絽は家を出ちゃ駄目だよ」


どうしてだか、私は無意識に呟いていた。

熱でぼんやりとした頭で、今なら言えるかもしれないと思う。


「だって、変だよ。実の息子が家を出て、もらわれっ子の私が残るなんて。父さんも母さんも悲しむよ」


千比絽が目を見開いた。こんな表情も久しぶりに見るなと、思う。


「千比絽が私を嫌いなら、私が出ていくよ。だから…」



「違う!」


私の言葉を最後まで聞こうとせず、千比絽は強い調子で遮った。


「…違うんだ。俺が時子ちゃんのことを嫌うはずがない。…逆なんだ」


千比絽は、苦し気に、絞り出すように言うと私を見つめた。

その瞳は切なくて、息を飲む。



「…逆?」





「そう。逆だよ。………好きなんだ」


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